長閑
70 の例文
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陳樹藩が叛旗を翻そうが、白話詩の流行が下火になろうが、日英続盟が持ち上ろうが、そんな事は全然この男には、問題にならないのに相違ない。少くともこの男の態度や顔には、そうとしか思われない長閑さがあった。
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こちらには一人前働かなくてもすむという安心ができ、向うにも一人前として取り扱うのが気の毒だという遠慮がある。そうして健康の時にはとても望めない長閑かな春がその間から湧いて出る。この安らかな心がすなわちわが句、わが詩である。
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竜の鬚の小径は百日紅の林の下を長々とうねつて、次第に築山へ昇つて行くのであつた。長閑な空には一羽の鳶が諧調的な叫びを挙げながら大輪を描いてゐた。
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そして歩いている男女は土人の如く見えてしまった。そして別の日に、私は同じ公園の古さと広さと長閑さと人情とがわかった。もちろん私の足で歩いたのだ。
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ゴツゴツとした岩場の向こう側に、レモン色の物体が引っかかっている。ただ問題は、現場より手前の海面に、赤い旗が長閑に浮かんでいることだ。
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三寒四温といって、思いがけなく暖かい日もあった。春が来るのは遅かったが、春になると鳥の声が長閑かであった。夏の昼間はきびしいが夕風が立つと、夜寒を感じるのであった。
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「うまくゆくだろうか」 孝二は心配だった。長閑で豊かな風景を見て、天皇陛下はきっと満足するにちがいない。予行演習を三回もしたのだから、成功は確実だと思った。
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おじいさんの墓のそばに植えた桜の木は、大きくなって、毎年のくる春には、いつも雪の降ったように花が咲いたのであります。ある年の春の長閑な日のこと、花の下にあめ売りが屋台を下ろしていました。屋台に結んだ風船玉は空に漂い、また、立てた小旗が風に吹かれていました。
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また、開発区域の南側は工業団地となっている。駅東側の大室地区は斜面林が中心の長閑な地域であり、住宅が点在する。それを越えると東急不動産によって開発された計画住宅街「東急柏ビレジ」がある。
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その長閑なひびきに遥子の緊張がすこし解け、ほっとした気分になった。そして音楽に誘われるように、事務棟の前を素通りして、そのまま奥へと足を向けた。
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帳場格子のうちにいる連中は、時間が余って使い切れない有福な人達なのだから、みんな相応な服装をして、時々呑気そうに袂から毛抜などを出して根気よく鼻毛を抜いていた。そんな長閑な日には、庭の梅の樹に鶯が来て啼くような気持もした。中入になると、菓子を箱入のまま茶を売る男が客の間へ配って歩くのがこの席の習慣になっていた。
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ベルリンの殺伐とした雰囲気とは異なり、湖畔の街の長閑な空気を感じる。
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評定所が阿片事件に追われる一方で、御内原は長閑な光景が広がっていた。大敵・聞得大君を追放した王妃はゆったりとした気持ちで寛いでいる。
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支那のある水郷地方。白柳が枝をたれて、陽春の長閑かな水が、橋の下をいういうと流れてゐる。橋の上に一人の男がたたずんでゐる。
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歴史家の中にはポピュリストを、前を見据えたリベラルな改革者と見る者もいる。長閑でユートピアのような過去を掴み直そうとした反動家だと見る者もいる。アメリカ人の生活を再建しようとした急進派と見る者がおれば、経済的に追い込まれて政府の救済を求めた農本主義者と見る者もいる。
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天氣の好い日には崖上から眠りを誘ふやうな物賣りの聲が長閑に聞えて來た。「草花や、草花や」が、「ナスの苗、キウリの苗、ヒメユリの苗」といふ聲に變つたかと思ふと瞬く間に、「ドジヨウはよござい、ドジヨウ」に變り、軈て初夏の新緑をこめた輝かしい爽かな空氣の波が漂うて來て、金魚賣りの聲がそちこちの路地から聞えて來た。
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とはいへ季節が秋だつたので、山もそれから山ふところの段々畑も黄色かつたり赤ちやけてゐたり、うそ寒い空の中へ冷たい枯枝を叩き込んでゐたりした。いはば荒涼とした眺めであつたが、それにも拘らず田舎はいつも長閑なものだ。時雨が遠方の山から落葉を鳴らして走り過ぎて行くかと思ふと、低迷したどす黒い雲が急にわれて、濃厚な蒼空がその裂け目からのぞいたりした。
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ここにも緊張の後に来る弛緩の長閑さがあるようである。
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明日は旧三月節句に当るので、路傍のどの家でも草餅を搗いていた。若い娘や子供などが田舎風に着飾って歩いているのも、土地に調和した長閑さであった。上原の部落から本道を離れて六、七町西に行くと駒止桜がある、下馬桜とも称しているらしい。
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けれども、なって見ると少し違った。妙に皆の心の中に負けおしみのようなこだわりがあって、長閑なところが少ない。
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その我不関焉といった居候たちの態度は、僕には面白く、鄙びて感ぜられた。ここにだけは、戦争の風も吹き込んで来ないかのような、朝鮮らしい長閑さである。苔むした中門の扉を、ギイーッと軋ませて潜り、正面の石段を昇ると母屋があった。
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いくさが近いというが、いっこうに、気配はおぼえぬ。おれはこのような長閑な暮らしははじめて知った。
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排泄物のにおいに似ているといえば似ている。でもそこから感じる長閑な感じは微塵もなく、切迫した緊張感がある。しかもそんなにおいにもかかわらず、いや、そんなにおいだからこそ、とてつもなく官能的だ。
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若侍のほうも、刀を抜いて星眼に構え、既に応戦の態勢に入っている。長閑なるべき田園風景にはちょっと不似合いな、物騒極まる光景だった。若侍の後方、約五、六歩というところで足を止めてからしばしのち、廉十郎はその背に問うた。
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ハイテク炭素はあらゆる戦術を確実に変えるだろう。ブリッジから眺めたペルセウスは長閑なリゾート島の姿をしていた。中央の第一飛行甲板がパイナップル畑になっていた。
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アパートにはまだ、警察から誰も来ていないようであった。その妙に静かに取りすましているアパートの長閑さが、私にはいっそう恐ろしいように思えたのだ。「乙骨氏の部屋はどちらですか」 由利氏の問いに私が先きに立って階段を登ろうとすると、ちょうどその時、受付の窓口から見覚えのある可愛い少女が顔を出した。
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卿はまだ寝てはいなかった。「人形箱なら心配せんでもよい」 と、姉小路卿は長閑そうに云った。
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それでも閑静な屋敷町にちらほら人の影が見えた。それが皆なそぞろ歩きでもするように、長閑かに履物の音を響かして行った。空には星の光が鈍かった。
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