赤銅
217 の例文
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そうして、彼女は左右の二人の酒盃の干される度に、にこやかな微笑を配りながらその柄杓を廻していった。間もなく、反絵の片眼は赤銅のような顔の中で、一つ朦朧と濁って来た。そうして、王の顔は渋りながら眠りに落ちる犬のように傾き始めると、やがて彼は卑弥呼の膝の上へ首を垂れた。
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出すときには、風呂敷の四隅を攫んで、濛々と湯気の立つやつを床の上に放り出す。赤銅のような肉の色が煙の間から、汗で光々するのが勇ましく見える。この素裸なクーリーの体格を眺めたとき、余はふと漢楚軍談を思い出した。
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しかし三度目の突撃ともなるとたすくには充分に余裕があった。ひらめく槍先を背後に流すと赤銅の千段巻をつかんで馬体に沿って走った。手前に引いてはいかなる剛力といえども人馬ひとつになった力にかなうわけがない。
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彼女はその次に比較的大きくて細長い桐の箱を出した。これは金と赤銅と銀とで、蔦の葉を綴った金具の付いている帯留であった。
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道がずっと続いていることは初めから知っていた。だが東の空に赤銅の銅鑼のように低くかかった月のせいで、辺りの風景はまるで違って見えた。たいていの人なら道があることもわからなかったろう。
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そんな時、夜中に目がさめると、つけっ放しの電灯に黄色い輪が見えて、それがまた妙に不安を掻き立てた。部屋の隅に薪ストーブが燃えていて、その上には赤銅の深い洗面器がかけてあった。たぶんその洗面器のお湯で、熱い湿布をしてくれていたのだろう。
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四角で非常に高く、いかめしくそびえていました。正面玄関には、赤銅の延べ金を張った二枚の黒檀の扉がありました。するとその乙女は戸口に立ちどまって、優しいたたき方でたたきますと、戸の二枚の扉が開きました。
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魚々子は切先が小円の鏨を使って金属の表面を凹ませて粒が散らばるように加工する技法。魚卵の散らばる様に似ていることから名付けられ、赤銅の地に加えられることの多い処理とされる。刀身が柄から抜け出すのを防ぐ目貫は、赤銅にそのまま虎の姿を容彫で表現している。
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太鼓の音とともに、東から進み出た縦横斎は、愛用の黒樫の四尺の木剣を握って立った。西の清兵衛は、これもふだん使い馴れた赤樫に赤銅の帯をまいた木剣。二人は形どおり、検分役席に一礼し、それからおもむろに対い合った。
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際前の動揺は瞬時に消え去り、圧倒的な闘気が赤銅の重鎧全体を包んだ。燃える長弓を握ったままの左腕が頭上高く掲げられ、再び凄まじいほどの炎が拳を中心に巻き起こる。
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姉のすぐそばに、もうひとつの人影があったのだ。明るい赤銅のような色の髪と、少し日に焼けた肌の、小柄な少年。質素な服装に身を包み、その手の中には園丁用の鋏がひとつ。
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柳原燁子氏の玉の井ハイキング記に連関してその文章が私の心に浮ぶのも、社会の現実を見る見かたに二人共通な個人的な、どちらかというと自足的な匂いが強くあるからであろうと思われる。柳原燁子氏は何のために伊藤伝右衛門の赤銅御殿をすてたのであったろうか。歌集『几帳のかげ』に盛られた女の憤りはどういうものであったのであろうか。
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それは精巧な青銅と赤銅を一面に張った、堂々とした扉でした。そこで私はその扉のすぐ前に立ちますと、老婆はペルシア語でひと声呼びました。
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細身の剣を操る華麗な戦いぶりは、彼女の一面に過ぎない。真の〈赤銅黒十字〉の技には、華麗ならざる実戦本意の戦法も多いのだ。それらを駆使して、エリカは矢継ぎ早に攻めつづける。
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赤銅の地についている浮きぼりの黄金の竜が明るい外光に豊かな光を反射させていた。たしかに、前田又左衛門の持っていたものに相違ない。
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あどけない風情の少女だった。背後に控えたのは男、赤銅に近い金の髪。ではあれが供麒だろう。
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日射に熱した赤銅の樋の中を雀がことこと音をさせて歩いている。空気は乾いていた。
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錬金戦団の戦士の少女。過去にホムンクルスに襲撃され壊滅した瀬戸内海の島・赤銅島の小学校の生き残り。顔の一文字傷はその事件の首謀者によって負わされたもので、ホムンクルスへの激しい敵意の象徴。
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焦けきった甲冑の重さもさることながら、それに包まれている五体の汗腺から流れるものは汗という程度のしずくではない。どの顔もどの顔も赤銅いろに燃えていた。こうなると、満身の血痕も泥のしぶきも、その人々の意識には何の関わりもないものになっている。
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煮色仕上げで赤銅の青みがかった黒とは異なった黒色が得られる。
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しかし、そこは旅館の一室であった。定吉の指の先では床ノ間に置かれた赤銅の布袋様が花月劇場の客にも似た下卑た笑いを浮べている。定吉はガックリ来た。
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赤銅の命が、まるで羽毛のようにゆっくりと弧を描いて、紅林の掌の中に落ちてきた。
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予定地に当る所に裸の長い溝が出来上った。それは到る所で掘り返されたから、赤土のために、遠くから見ると赤銅の線が青い山に走っているように見えた。何も出なかった。
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いかさま、お巡りさんでも頼まなければ、どの家でも泊めてくれなかったかも知れぬ。連日炎天の行軍で顔は赤銅のごとく、光っているのは眼ばかり。それに洋服は汗と埃でグシャグシャになった上に臭くなっている。
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金、赤銅、四分一、銅で装飾され、煮色仕上げで様々な色を呈している。ヴィクトリア&アルバート博物館所蔵。
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そのため一乗の作品には、洒脱なものや自作の歌を取り入れたものが散見する。また、後藤家では金と赤銅以外の地金を用いた制作を禁止していたにも関わらず、鉄地の鍔も制作している。ただし、やはり憚りがあったらしく、その際には一乗では無く「伯応」「凹凸山人」「一意」「夢竜」などの別号を用いている。
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自宅の鍵をはずし、康子の部屋の鍵とともに抛り投げる。赤銅の弾丸はまるで羽毛のようにゆっくりと弧を描いて、西岡の掌の中に落ちた。
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時雄は堪え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。ふと見ると、赤銅のような色をした光芒の無い大きな月が、お濠の松の上に音も無く昇っていた。その色、その状、その姿がいかにも侘しい。
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