納屋甚兵衞
4 の例文
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左肩胛骨の下から、見事に心の臟を突いたらしく、恐らく大したあがきもせずに死んだことでせう。月光は庭一杯を隈なく照して、曲者が此處へ出て來たとしたら、殺された加納屋甚兵衞には、何も彼も見えなければなりません。「どうして斯んなところへ出たんだ」 平次は佐吉に訊ねました。
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それから幾日か經ちました。お里はそれつきり姿を見せず、時三郎にも加納屋甚兵衞を殺したといふ確かな證據は無く、平次の智慧でもこれ以上の發展はむづかしく、氣の揉める日が、一日々々と過ぎて行くのです。
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あの加納屋甚兵衞が、御金奉行をして居るとき、藩の大金を取込み、その罪を下役の石郷時之丞に被せて逐電したため、石郷時之丞は自害をして主君に申譯しました。私がその伜の時三郎ですよ。
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茶席や運座の會や、碁友達の集まりなどに日もこれ足らぬ有樣でした。その頃の江戸は、創業の殺伐な氣分が失せて、町人に大通や物識が輩出し、風流韻事も漸く武家の手から町人の手に移つて行く時代で、加納屋甚兵衞最初は兩刀を捨てゝ蓄財に專念し、後に家業を放り出して、遊びと風流に打ち込んだのも、無理のない成行だつたのです。
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