無二無三
134 の例文
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その物音には彼もさすがにぎょっとしたくらいだった。子供はと見ると、もう車から七、八間のところを無二無三に駈けていた。他人の耳にはこの恐ろしい物音が届かないうちに、自分の家に逃げ込んでしまおうと思い込んでいるようにその子供は走っていた。
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彼等は廊下の戸口へ走った。と見る警官隊は早くも家を包囲して無二無三に突き入ろうとしている。彼はこの隙にジルベールを伴れて湖水の岸まで逃げようかと思った。
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こう思いながら無二無三に、麓をさして陣十郎も、走り走り走っていた。これは洵に彼にとっては、致命的の打撃と云わざるを得なく、そうして、事実彼にとって、再度の致命的の打撃なのであった。
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彼はすばやく足を縮めて、相手の武器を飛び越えると、とっさに腰の剣を抜いて、牛の吼えるような声をあげた。そうしてその声をあげるが早いか、無二無三に相手へ斬ってかかった。彼らの剣はすさまじい音をたてて、もうもうと渦巻く煙の中に、二、三度眼に痛い火花を飛ばせた。
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彼は素早く足を縮めて、相手の武器を飛び越えると、咄嗟に腰の剣を抜いて、牛の吼えるような声を挙げた。そうしてその声を挙げるが早いか、無二無三に相手へ斬ってかかった。彼等の剣は凄じい音を立てて、濛々と渦巻く煙の中に、二三度眼に痛い火花を飛ばせた。
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それに紛れ、それに引かれ、頼春も門から外へ出た。二千の人馬が京の町を、錦小路高倉の方へ、無二無三に押して行った。昨夜多治見の館では、盛んな酒宴が行なわれ、暁近くなって一同は寝た。
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変を知るやふたりとも、本能寺の中へ駈けつけて来た。おそらくは明智勢の混雑のなかを無二無三紛れこんで入ったものであろう。すでに煙にくるまれている信長の居間近くまで飛びこんで来るや否や、 「甚助まいりましたっ」 「松寿っ、駈けつけました」 叫びつつ、求めつつ、出会う敵と、斬りむすんでいた。
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「おまえは無二無三に歩いてきたつもりだろうが、馬鹿な男だよ」 と修一郎が言った。二人のうしろには大型の車がとめてあり、やがて二人はその車に乗ると、行助をおいてきぼりにして走り去った。
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私は気の違ったように妻へしがみつきました。そうしてもう一度無二無三に、妻の体を梁の下から引きずり出そうといたしました。が、やはり妻の下半身は一寸も動かすことはできません。
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馬の鬣は益々乱れ、汗は太腹に滴つて、つく息も急に又苦しげに鼻孔を洩れるが、案内の男は馬の歩みの緩むのを見ると、殆ど人間とは思はれぬやうな、不思議な喉音を上げて、叱咜する。すると馬は又、元のやうに無二無三に狂奔するのである。遂に旋風のやうな競走が完つた。
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おまえと邂ったときから 俺はいつもおまえと歩いてきた。おまえも俺も 無二無三に歩いてきた。少年院を宿命だと言ったのは黒だったな。
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双方はたちまち乱軍状態になる。そのあいだをくぐって、関平は無二無三に、父を扶けて味方のうちへ駈け込んだ。そのとき魏の中軍では、さかんに退き鉦を打ち叩いていた。
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「いかがした」 抱き起こそうとしたとき、その娘はいきなり総馬におどりかかった。「夫の敵、夫の敵」 懐剣をかざしてからだごと、無二無三に突いてくる。しかし、しょせんかなうわけがなかった。
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すると乙女は今までの恐怖が一度になくなったためでもあろうが、両手をダラリと脇へ垂れて人猿の姿を見守っていたが、振り返った私の顔を見ると南洋土人の熱情を現わし、いきなり私へ飛びついて逞しい腕で私を抱えて私の胸へ顔を押し当て全身を顫わせて絞めつけた。感謝の抱擁には相違ないが余りに強い腕の力で無二無三に絞め付けられ思わず悲鳴を上げようとした。乙女はそれに気がついたと見えて腕の力を弛めたがその代り今度は私の体を隙間なく唇で吸うのであった。
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私は気の違ったように妻へ獅噛みつきました。そうしてもう一度無二無三に、妻の体を梁の下から引きずり出そうと致しました。が、やはり妻の下半身は一寸も動かす事は出来ません。
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手ごろな距離があるほうがのぞましいのだ。後方の男が一人無二無三におえんに飛びかかってきた。その瞬間、おえんの手からながれるように鉤がとんだ。
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馬は、創の痛みで唸っている何小二を乗せたまま、高粱畑の中を無二無三に駈けて行った。どこまで駈けても、高粱は尽きる容子もなく茂っている。
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と思うと蜘蛛は猛然と、蜂の首もとへ跳りかかった。蜂は必死に翅を鳴らしながら、無二無三に敵を刺そうとした。花粉はその翅に煽られて、紛々と日の光に舞い上った。
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そうして三十郎の叫んでいる声が、洞窟一杯に反響し、言葉をなさず、ただワーンと、こんなように聞こえて来た。菊女は無二無三に奥へ奥へと走った。十字路らしい一角へ出た。
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殿様も老臣も家臣も驚いた。文六「これッ何を申す」と言っても団九郎、 無二無三と斬って来る。殿様が、 T「さては 騙り者か」 と言う。
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いくら生死の瀬戸ぎわにいたからとて、よもや気づかぬはずはない。気づいても、無二無三に攻め立てたものとわしは見る。「どうせ武田のお家は滅ぶのじゃ」 「生きていても甲斐はない」 「みな死ねみな死ね」 われから鉄砲の餌食となったのよ。
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つづいて、人の絶叫!竜之助は七兵衛を捨てて無二無三に馬を前へ走らせた。薬屋源太郎だけ、ただ一人、道の真中に打倒れている。
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庭園と見れば庭園である。かくてようやく目的地に至りついた米友は、森の闇の中へ二メートルの木柱をかついだなりで、無二無三に進み入りました。
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戦の駆け引きはしていられないのだ。あくまで無二無三でなければならない。海面で岩松の船手が、敵の大船列へ突ッこんで、元寇ノ役さながらの船戦を展開して、いくぶんの牽制はしていたものの、ここの干潟合戦の咆哮は、いつ果てるともみえない死闘の揉み合いだった。
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圧倒的に、いつのまにか、お銀様と同じこしらえをさせられてしまって、いざとばかり、戸外へ出ますと、星はらんかんとして輝き、胆吹の山が真黒に蟠っている麓は、濛々たる霧で海のように一杯になっているのを見ました。お銀様は無二無三にその霧の中へと没入して行くので、お雪ちゃんも同様の行跡を猶予することを許されません。雲霧晦冥の中に没入して行くお銀様、それに追従せしめられて行くお雪ちゃん、ある時はお銀様の姿をはっきりと霧の中に浮ばせてみとめ、ある時は、どこにどう彷徨うか見失って呆然として立つと、不思議にお銀様が霧に隠れる時は、きっとすずしい鈴の音が聞えます。
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長尾勢は善光寺の裏山にとりでをかまえて本陣とし、諸方に兵を出して、こちら方のとりでを攻撃しては焼きはらっているという。こちらを引き出して、無二無三に決戦をいどみかけるつもりにちがいなかった。こうなることは、晴信にはずっと前からわかっていた。
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もしその時でも油斷してゐたらば、一突きに脾腹を突かれたでせう。いや、それは身を躱した所が、無二無三に斬り立てられる内には、どんな怪我も仕兼ねなかつたのです。が、わたしも多襄丸ですから、どうにかかうにか太刀も拔かずに、とうとう小刀を打ち落しました。
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「あッ畜生」 と小六はその大胆な横薙ぎに、思わずまた一歩退いてしまった。新九郎は無二無三に、彼の撃ち込む隙間もなく斬って斬って斬り捲くった。しかしそれは何の技巧のない、術も息も欠けた血気の精力に過ぎないから、見る見る心臓が破裂するばかり息づまって来たのは是非もない。
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