散華する
30 の例文
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終わりが近いのか、煙で白く濁った空には次々と大輪が散華していく。
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敵艦に接近してまず二本の魚雷を発射させてのち、艇もろとも突進して体当りを敢行するのである。つまり、自分もまた人間魚雷となって散華しなければならないのだ。光常は艇長であった。
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表向きの顔は消え、中に隠されていた本当の顔が現われるのです。この一瞬、緻密に構築されていた世界が瓦解し散華するときのカタルシス。これこそが綾辻ミステリの真骨頂ではないでしょうか、そしてそれこそが、かつて綾辻行人を本格ミステリにのめりこませていた甘美な毒の正体なのではないでしょうか。
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のこのこ逃げ戻れば、その死が全くの犬死にになる。彼らは次期皇妃を救うために散華したのであって、それ以外のためではない。もしここで引き返したなら、デル・モラル空艇騎士団選りすぐりの飛空士は我が身大事に逃げ戻ってきた臆病者だ、と正規兵たちに陰口を叩かれるに違いない。
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俺は指先を唇に寄せ、爪を濡らす赤い液体をぬるりと舌で拭った。液体はいまだ生温かさを保っており、散華した生命の残り香を感じさせた。液体は口の中の唾液と混ざり、どろりとぬめる。
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今日、吾々がこの場に馳せ参じた目的は何か。アスターテ星域において散華した一五〇万の英霊を慰めるためである。
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幼い僕を救ってくれたファナ・デル・モラルをこの苦境から助け出したなら、自分のしたことを誇りに思えるのではないだろうか。いつかどこかの空で炎を噴き上げ散華するとき、僕の辿ってきた道を後悔しないで済むのではないだろうか。
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これに現地で編成された隊が五隊以上ある。結論を言えば、万朶隊以下フィリピンで二百五十一人が散華している。内地で編成された特攻隊はフィリピンに到着するまでに、長距離飛行の不慣れ、機材整備の不良などで苦労する。
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彼がそれから神風特別攻撃隊員として散華するまでの一年半を、どのように過ごしたかは想像に難くない。
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俺の目は、女ではなく、炎を見ていた。生命が散華するときに燃え上がらせる、あの美しい炎だ。
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三島も、そのことは知り抜いていたにちがいない。そして彼はみずから死を選ぶことによって、戦争に散華した仲間と同じ場所をあたえられることを願ったのであろう。ここでただ一つ残る事実は、臼淵や林には戦後の生活がなかった、ということである。
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有馬少将の行為に代表されるような〝体当り〟の例は、昭和十九年十月二十五日に「第一次神風特別攻撃隊」が発進するまえに、いくつも見られる。愛機が被弾して帰投不能と判断し、空中で敵機に体当りを敢行して散華したもの。
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あるBf109は、コクピットに直撃を受けパイロットを爆砕され、さらにその機体は、吸い込まれるように下方を飛んでいたJu88をも巻き込み爆発四散した。別のHe111は、機体全体に満遍なく20発もの直撃を受けその場で自ら光の花となって散華した。
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当時の社会的風潮、国民感情からして、兵役は男子たるものの義務と考えていたことを理解しないと、国のためと信じて散華した生命は浮かばれない。ソ連占領下にあった日本兵や一般邦人六十万人がシベリアに抑留されたのは相手がソ連であったための不運である。
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否定するのは、落下だ落下だと認識してない愚かな連中なんです。どうせ散華するだけの命、咲き方に悩み、散り方に迷うのは悪いことじゃないでしょう。
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「降旗中尉、とうとうあなたの形見を預かってしまいましたね」 坂上は出撃前降旗と交換したメモを胸に押えた。坂上が降旗に託したマフラーは、彼と共に敵空母上空で散華したのである。もし命ながらえて帰国できたら宛名の人に届けてやるつもりであるが、その確率は低い。
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人は感嘆し、嘆息を洩らす。だがそれが、戦いの特異な外貌に向けられるばかりで、散華した人たちの心情に、か程まで触れること少ないのはどうしたことであろう。ひと一人が死ぬということは、ただ興味をつなぎ気を呑まれて眺めていればいいことではない。
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日本人の血をうけた青年として散華することに肚をきめた太田に、舶来品や英語が思いもかけず艦隊勤務の中にまで追いかけてきたのは、皮肉としか言いようがない。士官浴室には、LUXの三文字を彫りこんだ大型の石けんが備えつけてあって、鼻をくすぐられるような芳香がした。
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これに対し、最後の三十四期の戦死者は一名、それも豊川海軍工廠で空襲に遭い戦死したものだ。もちろん、海や空で散華した予備学生出身の兵科士官と比べたら、戦死者の数ははるかに少ない。戦争に必要な艦艇や兵器を造り、実戦部隊が戦いやすいようにするのが主任務である技術科士官だけに少ないのも当然であろう。
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二等水兵で基礎訓練をうけてのち、稲村は航海学校、潜水学校をへて掃海艇要員となり、船山は航空母艦の艦載機に乗り組んで南太平洋におもむき、そして芳賀は土浦航空隊に編入されて、一式陸攻機の搭乗員となった。散華しなければならぬ海軍少尉であった。昭和二十年にはいると米軍の本土空襲ははげしくなり、芳賀らは六機の一式陸攻機とともに、北海道の美幌基地へ疎開させられた。
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絶望的な戦局下にあって特攻隊員たちがどのような日常を送っていたか、を知ることは日本人の精神風土を考える上で重要である。特攻隊の若者たちが黙って日本の未来を信じ、散華していったことは疑う余地はないが、彼らだけが内輪で見せた素顔はどのようなものであったろうか。もちろんすべてではない。
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まことに生命は貴ぶべきである。しかし、諸君、彼らが散華したのは、個人の生命よりさらに貴重なものが存在するということを、後に残された吾々に教えるためなのだ。
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ここで無条件降伏をのむと、特攻隊で散華した二千余の英霊に、何といって申しわけをしたらよいのか?
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庄九郎の強い筋肉の締りと体臭が、はじめて深芳野のなかに女という、男を迎えるにふさわしい粘液をもった生物を生まれさせた、といえる。が、このときは、意識は虚空に散華してしまったようで、何が行なわれているか、庄九郎が自分に、何を加えているのか、なにもかもわからなかった。深芳野の足がつまさき立ちになり、背が折れそうに反らされ、かろうじて息だけができた。
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ディードリットも光の精霊を呪文の束縛から解き放った。かりそめの命を与えられていた小さな光の精霊はまるで、お辞儀をするように二、三度揺らめくと形を失い、闇の中に散華していった。パチパチという音が弾けていく。
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戦中派世代の生き残りは、生き残ったことで存在を認められるのではない。本来ならば戦争に殉死すべきものであり、たまたま死に損なったとしても、生きて戦後の社会をわが眼で見たことに意味があるのではなく、散華した仲間の代弁者として生き続けることによって、初めてその存在を認められるのである。戦中派世代は死を前にして、「われわれは何のためにかくも苦しむか」「われわれの死はいかに報いらるべき死か」と、みずからを問いつめるほかなかったが、それに対する答えが、まだ戦後日本の歴史から生れていない以上、生き残りは死者に代って、この問いを問いつづけなければならない。
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あの時の思いつきと機転に感謝しよう。体と意識は風に乗り、ふわふわと頼りなく散華する。ただそれだけのことなのに、あとからあとから、雪になった次郎の上に自身が重なり、少しばかりの熱で溶け合っていく。
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この火事現場めがけて敵の集中砲撃は一層激しくなってきた。橋口勲小隊長も十二時ごろ、頭部を貫通されて散華してしまった。苦しまぎれに飛び出す者は、ウシ、ウマの高地からねらい撃ちされる。
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