居住い
33 の例文
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いつも階下に誰か来た時は、何かの気配を感じないことはなかったのに、その時ばかりは少しも感じなかった。私は心にぎくりとしながら、通してくれと女中に云って居住いを直した。やがてやって来た松本は、私に或る印象を与えた。
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しかしまず私の目につきましたのはそこに一人の娘が坐っていることでございます。私が入ると娘は急に起とうとしてまた居住いを直して顔を横に向けました。私は変ですから坐ることもできません、すると武が出し抜けに、 『見てもらいたいと言うたのはこれでございます』というや女は突っ伏してしまいました。
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じいじいと怪しく灯ざしが鳴いたかと見るまに、またパッと灯りが消えた。同時に対馬守は再びきっとなって居住いを直すと、騒がずに気配を窺った。だがやはり音はない。
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石庭も、実体は石と砂と壁に過ぎないのに、見る人の観念のなかに本物以上の自然が立ち現れる。辺留無戸は僧衣の襟元に手をあてて居住いを正し、次の間に移動した。不動明王の前に坐り、背中を向けたまま祈り始める。
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「それはまた変り過ぎているじゃないか」 平次もツイ居住いを直しました。木戸のところにぼんやり立っている八五郎も、四方に気を配りながら、聴耳を立てている様子です。
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久しく聞きたいと希望していた、秘密の話が聞かれるのである。浪之助は思わず居住いを正し、緊張せざるを得なかった。中庭に小広い泉水があり、鯉が幾尾か泳いでいたが、時々水面へ飛び上った。
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鹿乃は先に来ていた。庭が見える縁側のそばまで出て、うちわを使っていたが、助十郎をみると、居住いをただして挨拶した。「おひさしぶりでござります」 「やあ、ひさしぶり」 と言ったが、助十郎はついて来た女中に酒を命じると、どかりと坐って鹿乃を手で招いた。
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ふと気がつくと、次の間に女中がかしこまって、声をかけていた。二人は夢から醒めた様に、極まり悪く居住いを直した。「何か用かい」 三谷は怒った声で尋ねた。
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そんな風に努力が酬いられない事を、彼は私に隠さなかった。没になった経緯を打明けて、 「ぼくの力が足りなかったんだと思っています」 と、居住いを正すように言ったのが忘れられない。実は「薪能」も、〈新潮〉編集部への持込み原稿なのであった。
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雑誌の記事では、「一人暮らしのための器」というのは、いつも選び抜かれたセンスを漂わせていた。一人でも居住いを正すための、良い道具に見える。わたしもいくつかそんな器を持っていた。
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怪しい話だとたかをくくっていたが、一時間ほどして女が女中に連れられて来ると、島村はおやと居住いを直した。すぐ立ち上って行こうとする女中の袖を女がとらえて、またそこに坐らせた。
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老婦人は居住いを直した。「私は正しいカトリック信者でございますもの」 十字をきると、彼女は扉のほうに歩いて行ったが、ハンドルに手を当てたまま、そこで足をとめた。
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と得右衛門居住い直して挨拶すれば、女房も鬢のほつれ毛掻き上げつつ静まりて控えたり。
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「いや、本日はよい日和にござります」 内藤老人は大声で挨拶した。半十郎は竿を片寄せて居住いをただした。
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小六の影を仰ぐと、日吉も、これはこの者どもの頭目だなと覚ったらしく、やや居住いを改めて、じっとその顔を正視した。
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朝の九時ごろであった。庸三はまだ全くは眠りから覚めないような気分で、顔の腫れぼったさと、顔面神経の硬張りとを感じながら、とにかく居住いを正して煙草を喫かしていた。脊の高い背広服の紳士が入って来た。
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灰黒色の城壁を見上げていると、冷い風が頬を打ち、どこからともなく枯葉が舞ってきた。「こんなこと申し上げるつもりではなかったのですが」 リタは居住いを正し、竹鶴の目を見据えた。碧く澄んだ瞳には長い睫毛が秋の陽を浴びて光っていた。
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しかしこういう豪勢のいい大愉快の中で、己れ独り素面のまま碌々と顎を撫でているのは大して器量のいい図ではないから、傍らの棕梠の蔭に身を隠すようにしてなおも見るともなくその方を眺めていると、図らずも此処に一つの怪しい風景を発見することになったのである。気がついて見ると引っ繰り返すようなその大騒ぎの真っ只中で、居住いも崩さずに独り端然と酒盃をあげている人物がある。それは年のころ卅歳ばかりの白皙美髯の青年紳士で、一目でそれと知れる倫敦仕立のタキシードをきっちりと身につけ、襟の釦穴には婀娜に揷したる臙脂色のカーネーション。
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そして意味ありげな微笑を浮べて居住いを正した。あたかも予期していたと言わんばかりの相手の落ちつきが、桂の心に最初のぎょっとするような不安を思い出させ、喚び返した。
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さすがに酔い潰れた者も、居住いを正して平伏した。今まで眠りかけていた小姓たちは、はっと目をさまして主君の後を追った。
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文字と心とが、次第に鈍い抑揚になって来る。如何に心に鞭を打ち、居住いを正して気を引緊めても、一旦緩んだ亢奮はただもう弛緩するばかりである。ゆき子は、足がかりもない砂山の中途から、ずるずるずるずると不可抗力で谷底までずり落ちるような恐怖に打たれた。
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少なくも自分の家の植物界ではそういうことになっているようである。四月も末近く、紫木蓮の花弁の居住いが何となくだらしがなくなると同時にはじめ目立たなかった青葉の方が次第に威勢がよくなって来るとその隣の赤椿の朝々の落花の数が多くなり、蘇枋の花房の枝の先に若葉がちょぼちょぼと散点して見え出す。すると霧島つつじが二、三日の間に爆発的に咲き揃う。
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関君は居住いを直した。井目置かせて打つのは臍の緒切ってから初めてのことだから、得意だったのである。
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だからたまに使うと効果がある。内彦は慌てて居住いを正した。
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「どうした」 「気をしっかり持て」 平次はそれを後ろから抱えて、あり合せのぬるくなった茶を呑ませました。「あ、有難うございます、もう大丈夫です」 錦太郎は極り悪そうに居住いを直します。
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「致し方が無い、女、それに直れ」 英山公の最後の言葉を聞くと、小堀平治はハッとお園を縁の下に蹴落しました。続いて沓脱の上に庭下駄を直すと、 早くも番手桶を一つ、砂利の上に居住いを直すお園の後ろへ据えます。庭へ下り立った英山公の手には、つい近頃二つ胴を試したばかりの新身の一刀が、夕陽を受けて焼金の如く光りました。
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弁護士はそっぽへ眼をそらせて、礼儀をただして待っていた。祈祷が済んで三度十字を切ると、老人は帽子を真直に眼深に被り、居住いを正しながらいいだした。
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太助はさっそく憶え帳を引っぱり出し筆を構える。丹念に煙草を火皿につめこんでいた煙曲師は、やがて居住いを正し、上座に軽く会釈を送り、火皿に火をつけ、一口吸いつけ、口をつぼめて、おもむろに煙を吐きだした。すると煙は真っ直ぐにするすると伸び、それはまるで口から一本の長い棒を吐き出したようである。
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