囲繞
256 の例文
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金田一耕助はなんとなく胸が騒いだ。いまかれを囲繞している人物は、みんな終戦前後に重大な経験を持っている。越智竜平と巴とは昭和十九年に駆け落ちをして、丹波の奥の温泉宿にひそんでいたという。
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今日の私共を囲繞する社会は、「英雄と神との時代」を過ぎて居ります。社会の有機的組織の緊張は、其裡に生存する各箇人に、公衆との相互関係を痛感させます。
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十何世紀を積み重ねた我々の信仰生活は、明治の代に移って俄然として一変してしまった。神社仏閣の名と形は保存せられても、これを囲繞する人の境涯は昔でない。以前盛んに世間から取持たれて、今は存在さえ認められぬ職業も色々あり、それを忘れてしまってなお古風の持続を説こうとする学者さえすでに現われた。
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御母堂の鼻はシーザーのそれのごとく、正しく英姿颯爽たる隆起に相違ございません。しかしその周囲を囲繞する顔面的条件は如何な者でありましょう。無論当家の猫のごとく劣等ではない。
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そのかたわらに立っているのは、十五、六歳の少年武士、前髪立てにのし目の振り袖、その定紋は葵である。二人を囲繞して五、六人の武士、うやうやしく地上にかしこまっている。少し離れて三人の武士、高くたいまつをささげている。
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空には星も月もなく、中庭を囲繞した建物からは、灯火一筋洩れていない。で、四方は真の闇であった。
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この校長の精確な語学の知識は捨吉の心を悦ばせた。休みの時間毎に出て見ると、校堂を囲繞く草地の上には秋らしい日が映って来ている。足を投出す生徒がある。
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その中には教師としての捨吉と同年配ぐらいな生徒があるばかりでなく、どうかすると年長に見える生徒すらもあった。彼は早や右からも左からも集って来る沢山な若い人達に囲繞かれた。そこが麹町の学校だ。
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しかし間もなく彼の姿は、八幡の境内へ現われた。そこには二個所焚火があり癩患者がそれを囲繞み、動物のように蠢めいていた。だが陶器師は刀を抜かず、二つの焚火の間を通り、跡部大炊の屋敷の方へ、小路伝いに歩いて行った。
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二尺ぐらいしか燃え上がらなかった。火を囲繞した五人の男女は、火の光を他へ洩らすまいとした。ピッタリ体を寄せ合った。
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今、二〇ワットの電燈の下に両方の壁が聳え立ち、窓は鎖され、扉には鍵がかけてある。さうすると、彼を囲繞する四畳半の鬼気が、彼を憫笑してくれるのであった。彼は今日街に出て一人の婦人と恋の散歩をした。
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豆のように小さく見えているその番兵は槍を持ってこっちを見上げている。その中庭を囲繞して三つの城砦が立っていたが、三つとも巨大な角窓を中庭の方へ向けている。そして番兵が立っている。
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それに趣味は低下して、色調も俗になり、形態も貧弱となり、模様も醜悪になって来ました。これに囲繞される生活が、人間の美意識を濁らせる事は当然です。天才が作るわずかなものが美しいとも、それによってこの世は美しくならないのです。
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空気のにおいが、なんだかちがうようである。いままでの空気が死んだ空気だとすれば、いま佐七を囲繞している空気は、生きていて新鮮である。しかも、その空気はごくかすかだがうごいている。
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精霊の気が己を囲繞していたこの室で、 あんな人間の声が響いて好いものか。しかし下界にありとある人の中の人屑にも、 こん度は己が感謝せずばなるまい。
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津江川の瀬音を圧して、ごおっごおっと伝わる響きは、背後の山から来るのか、対岸の山からなのか、それとも上流の山々からであるのか、耳を澄ませてもわからなかった。この小さな部落は川を前にして山々に囲繞されている。どの山からともしれぬ不気味な音は、間歇的に山裾の小さな部落を揺すり続けた。
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氷見湊からはなれて、このあたりには人家もなく、潟の葦の茂みがただ風に揺れているばかりである。氷見は能登半島のつけ根に位置していて、海に面し、南・西・北の三方を山に囲繞されている。永禄のこのころ、越後の上杉謙信は京にのぼろうとして、越中にたびたび攻め入り、能登と越中の境にある郷土氷見は、戦火の絶えたためしがない。
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どこにこの時までいたのであろう?往来の人たちに気づかれないように、儒者ふうの老人を囲繞して、さっきから歩いていたのであった。つまりそれとなく方陣を作って、真ん中へ儒者ふうの老人を入れて、互いに関係がありながら、関係ないというように、さっきから歩いていたのであった。
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学校で、この春まで、東京附近の高射砲隊にいた友坂教諭の話によると、昨日の敵機は一万二三千メートルの上空を飛んでいたという。東京の周辺には、高射砲陣地が二重に囲繞して出来ており、その砲数は三千ほどである。そしていま三重目の陣地が出来かかっているという。
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緑色の衣裳と緑色の被衣を、一様に着ている女たちを、四本の常磐木にたとえたならば、緑色の小袖に覆面姿の、四人の武士たちも同じように、四本の常磐木にたとえることができよう。その常磐木に囲繞されて、黒塗りの駕籠が中央にあるのは、岩といってもよさそうであった。その岩から外へはみ出して、一叢の花が咲いていたがその中の純白の大輪の花が、得ならぬ芳香をあげながら、ゆるゆると下へうつむいて行く。
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最後にまた右の方には、ジューヌール街の行き止まりの隧道があって、囲繞溝渠に達するまで小さな横穴が方々についている。そしてこの囲繞溝渠のみが、十分安心できるくらいの遠い出口に彼を導き得るのであった。もしジャン・ヴァルジャンが、上に指摘したようなことを多少知っていたならば、ただ壁に手を触れただけで、サン・ドゥニ街の下水道にいるのではないことをすぐに気づいたろう。
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児玉に陪席する高官らは、石本逓信次官、松永中将、山根少将らの官吏と軍人、そして、そのまわりに芸妓がはべっていた。「芸妓給姉に囲繞せられ」 と『鉄道時報』はそのようすを報じている。御園座内には、臨時の郵便局も開設された。
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それは何といっても、かすかにもせよ、個性の働きによってのみその存在をつなぎ得るのだ。けれども若し私達の生活がかくの如きもののみによって囲繞されることを想像するのは寂しいことではないか。この時私達の個性は必ずかかる物質的な材料に対して反逆を企てるだろう。
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歩道は上流側のみに設置されている。欄干は橋が囲繞堤と交差する辺りで可動できる様になっている。県道の橋であるが橋の管理者はさいたま市 である。
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外には夜闇と死の渦巻が二人を囲繞している。僕らは、危険に身をすくませて、死の断崖に腰かけている。
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が、いま彼の見ている星は平面図上の星ではなかった。星は彼を囲繞していた。星の中に彼はいた。
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こういう方向に向って行って居る人は居ります、勿論。けれども、彼女等の周囲を囲繞して居る種々な条件はなかなか、人類の希望する「そのところ」へは行かせません。私共の前進に大きな困難があると同様に彼女等も又、多大な努力を要すべき種々な障害を控えて居ります。
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そうして彼らの事業は、じつに、父兄の財産を食い減すこととむだ話をすることだけである。我々青年を囲繞する空気は、今やもうすこしも流動しなくなった。強権の勢力は普く国内に行わたっている。
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