五月晴れ
77 の例文
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美少年じみた、きりッと小股の切れ上った美貌だが、笑うと目許に、爽やかな色気が滲む。やはりどう見ても、五月晴れの空に映える花菖蒲に似た女なのであった。
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五月晴れの空が青く、あちこちに鯉のぼりが風に泳いでいるのが見えた。とたんに彼は、下からの声に返事をしなければいけないと思った。
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ちょうど啓二が座っている席の辺りだ。雲一つない五月晴れの空を見つめる尚顕の太い眉の間に、縦皺が寄った。目が覚めてから、体に微かな痺れが残っている。
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郭公が遠く近くで啼いていた五月晴れの美しい丘の上であった。耕作は自分が、何か薄情な人間に思われた。
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二十世紀末の日本。雲一つない五月晴れの空の下、巨大な工場地帯があった。
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五月晴れの後に五月雨が続いて、大川は川開きの時とは形相が変った。濁流が音をたてて海へ向い、時には上流から押し流されて来た木材などが「かわせみ」の近くの岸辺にひっかかったりして、嘉助や「かわせみ」の若い衆は大川から目が離せない状態が続いた。
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なお、旧暦の五月は新暦では6月から7月に当たり、梅雨の季節である。五月雨は梅雨の別名であり、五月晴れは本来梅雨の晴れ間のことである。英語名などの はローマ神話で豊穣を司る女神マイア の名に因むといわれている。
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そこで五、六分空費したが、自動車客の方は数も少なく、順調に作業は完了した。相変わらず抜けるような五月晴れで、海の色も山の緑もあざやかだ。妙な事件さえなければ絶好の旅行日和に違いない。
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編集者は新人の登場を渇望しているようだったが、文芸雑誌は文名も定まった作家の作品に占められていて、無名の作家の作品は、よほど優れたものでなければ採用されることはなかった。五月晴れの或る日曜日、鍋島が赤いポロシャツを着てアパートにやってきた。鍋島は、圭一の長兄と同じように繊維会社を経営していて、圭一よりも三歳若いこともあって数年前から遠慮のないつき合いをしていた。
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鋭い唸りを発して、一個の独楽が、五月晴れの空中へ、翔けあがった。翔けあがるとともに、澄んだ宙に、それは溶け入って、見えなくなり、ただ、唸りだけがひびいていたが、やがて、落ちて来た。
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五月十三日の朝、麻生さんから電話があった。体調がよいし、天気も五月晴れだし、これからちょっと行く、と言う。彼は輝子夫人の運転で、国立の私の家にやって来た。
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なぜか少女の記憶のなかでは、葬式のときには冷たい雨がふっていたように潤色されているのだが、実際にはあの日は晴れていた。それはもう残酷に思われるほどの、明るい五月晴れだった。その眩い五月の陽光のなかに、母親の妹である叔母の蒼ざめた顔、そして喪服がクッキリと浮かびあがっていたのも、よく憶えている。
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お前の恩師の今井潤造は自殺したんだぞ。ケルビムを否定し、守屋で五月晴れの太陽を浴びて自決したんだ。発表欲にとりつかれて権力と手を結びはしたが、最後は人間であろうとしたんだ。
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翌五月五日は、朝から、良く晴れて、文字通りの五月晴れの休日だった。隅田公園の殺人事件が片付いたので、十津川は、久しぶりに、自宅で、のんびりと、テレビを見て過ごした。
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田の畔、街道の両側の草の上には、おりおり植え残った苗の束などが捨ててあった。五月晴れには白い繭が村の人家の軒下や屋根の上などに干してあるのをつねに見かけた。用水のそばに一軒涼しそうな休み茶屋があった。
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翌日、長かった梅雨があがった。吉亮はきのうに変る五月晴れを、浅草山谷の五郎兵衛の家から眺めていた。負傷した浜田は近くの角次郎の家にあずけた。
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それから、一週間と少し。五月晴れの平穏の中、桃山は明けの体を横浜へ運ぶことになった。平日の午後、京浜東北線の車内は、外回りの背広や、カルチャースクールの友達とお出かけといった風情の主婦連が席を埋めている時で、その頭上では、週刊誌の扇情的なコピーを記した中吊り広告が、扇風機の風に揺れていた。
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我が家の居候全員に共通しているのは、この目の色だ。あの、能天気にしか見えないジュンペイでさえ五月晴れのような瞳に影のさす時がある。その目を見て、私は理解した。
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だが、大西は本当にその目的のためだけに帰って来たのだった。翌朝、五月晴れに晴れた空を眩しそうに見上げながら大西は言った。
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それに天気もよかった。五月晴れというのか、さわやかに晴れ渡り、数片の雲が綿に似て浮いていた。九沢半兵衛とは、二月の初午の日以来会っていない。
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山崎屋までは歩いてもいくらでもない近さだった。今日は五月晴れといってよいほど、さわやかな日で、表に菖蒲太刀売りが出ている。毎年四月の末から五月にかけて売りに出るもので、端午の節句の飾り物として初節句には欠かせない。
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港から吹いて来るしめっぽい東風が、二階の窓から、石炭の煤くさいにおいを送りこむ。五月に入ってからも、雨模様の日が続き、なかなか五月晴れの青空があらわれない。大小船舶の碇泊している洞海湾は、どんよりした曇天の下で、灰色の水をたたえ、時に風をまじえて波立った。
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目がさめるような五月晴れの朝である。五条川のほとりの道を、ひとりの騎馬武者が汗みどろになって疾駆していた。
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そのことにヒントを得て、葉子はある計画を実行に移した。五月晴れの土曜と日曜の丸々二日かけて、バリ島帰りのように躰を焼いたのである。ホテルのプールサイドでもない。
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机竜之助はこの朝、縁側に立って山を見上げると、真黒な杉が満山の緑の中に天を刺して立っているところに、一むらの雲がかかって、八州の平野に響き渡れよとばかり山上で打ち鳴らす大太鼓の音は、その雲間より洩れて落ちます。「ああよい天気」 白い雲の山にかかる時は、かえって五月晴れの空の色を鮮やかにします。「奉納日和でござりまするな」 門弟連ははや準備をととのえてそこへやって来ました。
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その後、行なわれた選挙では、確か、尻から二番目で落選していたように覚えている。アパートを出る日は素晴らしい五月晴れだった。パット一家が昼食に招いてくれた。
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しかし、呉一郎はこう尋ねられるとフッと暗い顔になった。静かに眼を外らして、窓の外一パイに輝いている五月晴れの空を飽かず飽かず眺めているようであったが、やがて何事かを思い出したらしく、その大きな眼に涙を一パイに浮き出させた。その様子を見ていた正木博士は又も呉一郎の手を執りながら、葉巻の煙を一服ユッタリと吐き出した。
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日暮れ近くに、久太郎は代々木神社の石段を上った。五月晴れの一日が終えようとする境内は、ほの白さが杉木立の間をひっそりと流れていた。宮司は外祭で出かけていて、志津子が茶の間へ迎えてくれた。
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