一隅に立つ
18 の例文
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薄暗い待合室の一隅に立っているその男の姿は、まるで物の怪のようだ。全身から黒いかげろうが立ちのぼっている。
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勿論畳の上で死んだ人達ではないのだ。然しこの墓地の一隅に立ってこんな感傷的な考えを起す人は稀だろう。都会生活の人々は忙しくてそんな事を考えている暇はないのだ。
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子供は笛が欲しかつたのである。子供は扉をひらいて部屋の一隅に立つてゐた。
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黒影はみな手に鍬を持っている。庭の一隅に立つと、そのむれの中で、きれいな、しかしふるえる女の声がした。
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彼が後を追おうとしたら止めるなという触れが下っていたのだ。そして二人は抱き合ったままもろともに〈穴〉に落ち、気付いた時にはロンドンという名のこの巨大な都市の一隅に立って居たのだ。ジャックは初めから〈穴〉の向こうが地獄ではなく、別世界だということを知っていた。
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そんな作業の日々、知幸は土足袋で裏山から現場に現われては矍鑠として監視の眼を炯らせ続けた。彼が最も問題にしたのは、裏山の谿間の落ち込んだ一隅に立つ三十二本の杉の処遇である。その部分を航空写真でしか測量しえなかった九地建は薪炭林と見誤って、裁決書には雑木としての補償額しか計上していなかった。
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一分ほど走って、エントランスホールに出る。疲れはて、不安そうにすわりこんでいる人々の間を歩いて、観葉植物の大きな鉢が並んだ一隅に立った。
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いわば半ば弥次馬的気持であった。それと、日ごろから代筆しているのが保守党議員のものに多いので、この際、会場の一隅に立って議員たちの様子を眺め、その空気を知りたかった。仕事の上に役立つだろうと考えた。
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彼女はひどく怒っていた。テーブルのかげに伏せたドイツ人と、部屋の一隅に立って壁にへばりついているパブリック・スクール・タイプの男以外は、全員が拳銃を抜いていた。壁ぎわのベンチの上で、ブロンドに染めた髪のつけ根の黒い三人の女が、爪先立ってのぞき見しながら、きゃあきゃあひっきりなしに悲鳴をあげていた。
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最初の発見者が駈けつけた刹那に、ジャックは屍体を離れて、その時は静かに、そこらの暗い一隅に立って人々の驚愕を見ていたに相違ない。私は、個々の犯行を最初に報告して、それによって読者にまず探偵小説的興味を与えるような平凡事はしたくない。
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楽に寝られるように、彼は乾草の真中に穴を拵えて、膝頭に肘が届くほどまん円くなっている。ヂューヂャが階下の自分の部屋に蝋燭をともし、眼鏡をかけて、小さな本を手にして一隅に立っているのが中庭から見えた。彼は長いこと本を読んでは拝んでいた。
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しかし、その翌朝はやく、無事に残つた品々を見出すために、彼等が再び自分の家の廃墟を訪れたときの印象は、不気味なまでにまざまざと描かれるのであつた。倒れた柴の垣根を踏み越えて庭の一隅に立つたとき、まづ真弓の眼に映つたのは、二階の自分の部屋の少なからぬ調度が一つの塊になつて庭の隅の松の樹の下に乱れた姿をして投げ出された情景であつた。それは砕けた柘榴の果実にも似た色彩を有つて彼女の眼を衝いた。
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その日は決勝レースの当日で、空が朝から青々と晴れわたり、五月の太陽の光がクルーザーとヨットの浮かぶモンテカルロ港の水面にまぶしく反射していた。そのなかで十一時にウォームアップ走行がはじまると、太田誠はピットの一隅に立って自分の車のエンジン音に耳を澄ませた。他の車もF1独特のエンジン音を響かせて一緒に走っていたが、彼は自分の車のエンジン音だけを拾うことができたばかりでなく、音の変化でドライバーがどのカーブを何速のギヤで抜けようとしているのかさえきき分けることができた。
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それに誘われ、または催促されたように、一斉なる拍手が轟き渡った。会場の一隅に立っている土井信行は、奇異に思った。こういう台辞は、彼の書いた台本にはないことであった。
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賭博で身ぐるみはがれる、などというのは、当人の自制心が欠けているからであって、犯罪でも何でもない。ラトゥール地区の門をくぐり、広場の一隅に立って、さてどちらの方角に向かおうか、と、にんじん色の髪の青年は思案した。いきなり後方から右肘をつかまれ、ファン・ヒューリックは一瞬で心身を武装させた。
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アルマン・タンプリエという人が、夫人の作品をこのそう書に入れたのでして、そのためにこのそう書が成功したと、いわれているぐらいです。セギュール夫人の銅像は、いまでもパリのリュクサンブール公園の西南の一隅に立っていて、公園を訪ねる人に、ほほえみかけています。
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この、もどかしさ。あれは春の夕暮だつたと記憶してゐるが、弘前高等学校の文科生だつた私は、ひとりで弘前城を訪れ、お城の広場の一隅に立つて、岩木山を眺望したとき、ふと脚下に、夢の町がひつそりと展開してゐるのに気がつき、ぞつとした事がある。私はそれまで、この弘前城を、弘前のまちのはづれに孤立してゐるものだとばかり思つてゐたのだ。
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