やうな口吻
19 の例文
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最初からけちがついたことが、縁喜商売だけに一層伯父の心を腐らし、今では最う余り気乗りがしてない様だつた。都合によれば、廃してもいゝといふやうな口吻を洩らすことさへあつた。六条の鍵屋の伯母が亡くなつたのは丁度その頃であつた。
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神よ、彼女が世界中の男を知つてゐるやうな口吻をもらすことを封じ給へ。
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その中でもあの学問のある若い教授はどうだらう。己は目下のものに物を教へるやうな口吻であれと話をした。その間いつも己はこんなに賢い、こんなにお前よりは進んだ考をしてゐるぞと、相手に示さうとしてゐた。
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中国人やアメリカ人が、日本人の鼻柱をくじくことが必要であると考へ、それを今度の戦争でみごとに実行したとみることもできる。こゝでわざと第三者のやうな口吻を用ひることをゆるしてもらひたい。われわれの鼻柱はたしかにくじかれたが、しかし、自尊心といふものは鼻柱がいくつもあるものと見える。
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まさか學校でも一匹のカメレオンの爲に温室を拵へてはくれまい。學校へ行つて其の許可を求めると、校長はじめ他の職員達はもう殆ど昨日のことを忘れてゐたかのやうな口吻だつた。
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わざと相手を侮辱して遣らうと思つたのである。学士は自分の顔を、ずつと面皰だらけのきたない相手の顔の側へ持つて行つて、殆ど歯がみをするやうな口吻で、「一体君はなんの為めにこんな馬鹿な事を言つてゐるのです」と叫んだ。それがもつと激烈な事を言ひたいのをこらへてゐるといふ風であつた。
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三村との関係を秘密にする為に、実際は以前からも遊蕩など恰で知らない癖に、遊里に情人でもあるかのやうな口吻を洩して居たことを楯に、久し振りでその所を用ゐたのであつた。
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別莊は、小田急の終點の直ぐ傍だから、お待ちしてますから歸りには是非寄つて下さいつておつしやいましたの。旦那さまは、あなたにお會ひしたいやうな口吻でしたのよ。あなた、お寄りしないでせう?
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私は当時まだ大学生だつたので、この雲の上に眺めてゐたやうな老大家がさういふ話を訴へるやうに語られ、沁み入るやうに話されるのを、うはの空できく心地だつた。その時今どこに住んでゐるのかと問はれ、高円寺と答へると、そこがどんな恐ろしいところか、御自分の経験で語られ、私がよほど勇気があるか、力があるかのやうな口吻で感心せられた。
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「志願兵が一名小銃で自殺しましたのです」と、警部は自殺者が無遠慮に夜なかなんぞに自殺したのに、自分が代つて謝罪するやうな口吻で云つた。「見習士官でせう」と、ソロドフニコフは器械的に訂正した。
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Aを前に置いて、私の我儘な事や、自己主義的な事やがよく論議されました。時とすると、あなたはほんとに眞面目になつて、私のあなたに對する態度などに就いて、彼に訴へるやうな口吻を洩す事がありました。そんな時には彼はきまつてあなたの肩を持ち、さうして私を貶しめていひます。
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それで兄の窮屈げな、葬に立つた時のやうな歩附きとは兎角調子が合ひ兼ねる。スタニスラウスは妹の足の早いのを、慾望的な、現世的な努力を表現してゐるやうに感じて、妹を警醒するやうな口吻で、「兄は可哀さうな男だつたな」と云つた。少佐夫人は只頷いた。
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しかし、それをEやWがわざわざ引つぱつて行つたものとは考へられなかつた。しかし二日前に龍子がT氏に会つたときT氏は、わざわざEが其処へ引つぱつて行つたかのやうな口吻で、Eの無謀を非難がましく龍子に当てつけた、少くとも、Yと云ふ連れのある際に無謀な事をしたものだと云ふ腹は明らかに龍子に見せつけられた。
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それを考察する前に、芸術のための芸術論を、まるでブルジヨア社会から生れて来る本質的な理論であるかのやうに思ひちがへてゐる人がすくなくないことを私は指摘しなければならぬ。「文芸戦線」のテーゼすらも、そのやうな口吻を洩らしてゐる。だが、かゝる理論は一定の社会条件のもとには常に繰り返される理論であり、その意味に於て、十分存在の理由をもつ説である。
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それよりも俥夫は俥夫としての立場から、一文でも高値を吹きかけて、不当の賃銭を取つてやるのだなア。お前たち両人は何だか乗馬出のやうな口吻をもらしてゐたが、自分から名乗る奴にロクな奴アありやしないワ。おほかた稲田大学の落第生ぐらゐだらうよ。
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卯平は右の手を出して蒲團の上へ伸して 「熱ぼつてえから一枚とつてくんねえか」力ない縋るやうな聲でいつた。「本當に暖く成つたんだよなあ日輪まで酷く眩ぽくなつたやうなんだよ」おつぎは例の少し甘えるやうな口吻で一枚の掛蒲團をとつた。
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「あれが駄目なら、外のものをお書きですか」と三藏は又聞く。水月は例の如く暫く默つて後「君は矢張り小説家になる積りですか」といつて三藏の顏を見て居たが「僕には小説は書けないやうだから、もう創作は止めようかと思ふです」「それでは何をおやりですか」「サア」と水月は自ら疑ふやうな口吻で「何をやりますかな」といつて淋しい笑顏をする。いつもの通り話が跡切れると又句を作る。
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