用例.jp ブックレビュー

辺見じゅん「収容所から来た遺書」

★★★★★ (5/5点)

はじめに、一読者として、本書を上梓された辺見じゅん氏にお礼を申したい。本書がなければ、シベリアの「ラーゲリ」に於ける我らが先祖の生きた俘虜生活を知る由もなかった。

アムール句会

人間ドラマは神出鬼没で、それは第二次世界大戦後のウラルやシベリアの俘虜収容所とて同じことである。就中『北東アジアの諸民族』の著者・山本幡男のそれは一層輝いていた。本書は山本氏を中心とした流星群の人間ドラマを爛々と描いた傑作である。山本氏は博識で、知能も志も高かったが、物腰は低く、倦むことを知らず、死ぬ間際まで希望を持ち続けた大和魂の権化であった。文才豊かで、教師としても優等──彼の産児たる「アムール句会」は多くの名句を産出した。成る程、ああした状況下では俳句の味が際立つものに相違ない。北溟子(山本氏の俳号)は云う。

 「俳句の面白さは、内容の深さ、映像の鮮やかさ、連想の豊さ、余韻の大きさ、思想の高さにあり、視覚的・音感的に魅力のあるもの、印象が鮮明で実感に迫るもの──抽象的に言えば、美と真実を内包するもの──である。」 (一部、形式上の添削有り。)

これは氏の『句に就いて』で語られているものだが、蓋し名文である。氏が生き長らえていれば、第一級の文士になっていたろうことは想像に難くない。

「生きてさえいればよいのだ」

山本幡男という日本人が在ったことが知れただけでも、本書には値段以上の価値がある。今際の際まで希望を持ち続けた孤高の魂は仲間に慕われて天に召された。「生きてさえいればよいのだ」──他の誰が言うよりも氏のこの言葉に重みを感じた。これは人生の教科書である。

レビューを読むよりも、先ずは本書を手にとって自分で体験してみることを切に勧めたい。