用例.jp ブックレビュー

三島由紀夫「作家論」

★★★★★ (5/5点)

傑作集

私は六年前に新潮社が編纂した『三島由紀夫評論全集(全四巻)』を買い求めた。小説家・三島よりも批評家・三島の方が偉大であると深く信じたからである。そしてそれは誤りではなかった。本書はその「評論全集」の中でも威光を発する作家論ばかりを収録した珠玉の傑作集である。

三島は本書で、作家の心を舐め回すように観察し、作品のロゴスを極めて鋭敏且つ的確に浮き彫りにする。就中難解であったろう森鷗外の壮快な評論に始まり、紅葉、鏡花、谷崎、内田百閒、川端康成など、現代でも広く読まれる大文豪を的としてくれているのが嬉しい。後半の尾崎一雄、外村繁、上林暁、武田麟太郎、島木健作らは知名度こそ落ちるが、それら「作家論」が読者に更なる興味をかき立てること請け合いである。

一つ注意されたいのは、三島氏は必ずしも客観的視点から作家を論じているのではないという点で、稲垣足穂、牧野信一、林房雄らの評論は特に、氏の好みや私情が加わっているように思われる。稲垣足穂に至っては澁澤龍彦との対話の影響もあったであろう。──尤も、俎上に載せられている作家に三島が嫌いな作家はいないのだから、多少の私情は全員に含まれているのではあるが。

リズール(精読者)への誘い

氏は『文章読本』で、読者をリズール(精読者)に導きたいと言う。フランスの評論家チボーデを引用し、文学は本質的な目的として実在し、その世界を本当に実在するものとして生きていける程に文学作品を味わうことのできる精読者──その彼岸過迄を説こうとするのである。本書で、リズールの極地に立つのはやはり三島であると確信させられた。リズールの最高のお手本として本書を読むのもよかろう。それでも買いあぐねている読者は、鴎外と谷崎の作家論だけでも立ち読みしてみると良い。──恐らく、読み終わる頃には目が丸くなっているであろうから。