用例.jp ブックレビュー

松原隆一郎「書庫を建てる」

★★★★☆ (4/5点)

家族と暮らす家でも、図書館付きの家でもなく、仏壇付きの美しい書庫を建てるという、なんとも贅沢な企画本である。

構成

本書は三章──「家を建てるわけ」、「どんな家を建てるのか」、「建ち上がる家」──から成り立つ。

最初の章では松原家の来歴が滔々と綴られている。これについて正直に言わせて貰えば、本の1/3もページ数を費やす必要があったかは疑問である。勿論、氏の来歴──特に祖父にあたる松原頼介の起業云々──はそれなりに面白いのではあるが、そういった情報を期待して本書を購入する読者は寧ろ少ないように思われたからである。

書庫完成への道程

私はそれで肩透かしを食らった気分だったのだが、次章の土地探し、プラニングのプロセスを通読するにつれ、有用な情報が其処此処と見られるようになり、とりあえず無駄金ではなかったと安堵した。設計の最終プランではしっかり平面図が提示されており、好感が持てた。欲を言えば、断面図で、書架各セクションの高さや幅を載せて戴きたかったのだが、そこまで望むのは欲張りというものか。松原氏の本の配置については、私には不可思議に思える点が多々あったのだが、それは主に個人の好みに尽きよう。しかし、本棚の各セクションのサイズが一律ではないことは明確で、その為に生じた、配置における非効率性は多々ありそうに見えるのも事実である。The devil is in the detail──さすがにそればかりは設計で満足させることはできなかったとも考えられ、構造を優先し、仕方なく幾許か利便性の犠牲を感受することを選んだのであろう。そういった実際に使ってみて浮上する使用上の問題については一言も触れられていない。設計者と共著であること、或いは関係者への義理もあったのだろうが、そこが本書を通して一番残念に思われた点である。

最終章では施工のプロセス並びにそこに於ける困難・辛苦が纏められている。大工の視点からはあまり語られていないが、特に彼らの並々ならぬ努力があったことは間違いあるまい。確かに書を重んじる者にとって、こういった唯一無二の知の空間を設けるのは一つのロマンである。松原氏は「静謐」という熟語を多用するが、螺旋の中で本に包まれながら、永遠にさえ感じられる、その静謐な時間を味わう気分は如何ばかりであろうか。これには私も触発されずにはいられなかった。

まとめ

私はルポの文体をあまり好まない。ただ、本書はそれに似た文体で書かれておりながら、無駄がなく、言葉に注意を払って稿を紡いでいっているので、そこまで気にならなかった。最初の章を除けば、松原氏と堀部氏の間で重複は多々あれど、全体的に上手く書かれている方だとおもう。関係者の熱意も完成までの道筋も良く伝わった。興味があれば一度手にとって頂きたい一冊である。