風の吹く日
46 の用例
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その上雲が或る国から他の国へ行く時は、どんなに早い競馬馬だつて追附きやしない。
お前達は風の吹く日、雲の影が庭の上を走つて行くのを見た事があるだらう。
山も谷も野も川も、忽ちの中に通り越して了ふ。
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ファーブル・ジャン・アンリ『科学の不思議』より引用
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風の吹く日はそれが空中に舞い上って、四辺は真暗くなる事さえある。
鳩の翼の間にもぐり込んでいたものが自然に落ちたり、羽ばたきする度に落ちたりして、それが籠の中に溜るんだね。
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大倉燁子『鳩つかひ』より引用
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そこで自分は出来るだけ遠くから、また尻尾の方からばかり、いるかいないかを見ようとしたのであった。
風の吹く日には尻尾は必ず風下の方へ向いた巣の外へ突出していた。
そうしていつ行って見ても、殆とその尻尾の出ていない時はなかったのである。
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柳田国男『野草雑記・野鳥雑記』より引用
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真っ暗な闇が大好きなのです。
私たちは風の吹く日に、暗い野原から野原へ、町から町へ飛んでゆきます。
そして、みんな火という火を消してしまいます。
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小川未明『公園の花と毒蛾』より引用
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若主人は鯉の稚魚を掬いとる手を休めてそう云った。
それが数日前の、むんむんするほど苗代風の吹く日のことであった。
若主人は一尾も無駄を出さないようにして三千尾の稚魚を池に入れた。
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井伏鱒二『黒い雨』より引用
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が、行ってみてぶったまげたわね。
小樽湾の海がすぐそこにあってね、風の吹く日には、波が飛んで来るような所に家があった。
しかも、すぐ目の前は小高い山で、おっかないような岩が、ぐいっとせり出している。
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三浦綾子『母』より引用
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そして、おまけにこの木は、うなり声を出すのです。
なるほど、地球でも風の吹く日は、木がうなることがあるのを私たちは知っています。
しかし、この木のうなりかたは、それとはちがいます。
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ロフティング『ドリトル先生物語08巻 ドリトル先生 月へゆく』より引用
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雨の降る日には本堂の四面の新緑がことにあざやかに見えて、庫裡の高い屋根にかけたトタンの樋からビショビショ雨滴れの落ちるのを見た。
風の吹く日には、裏の林がざわざわ鳴って、なんだか海近くにでも住んでいるように思われた。
弁当は朝に晩に、馬車継立所のそばの米ずしという小さな飲食店から赤いメリンスの帯をしめた十三四の娘が運んで来た。
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田山花袋『田舎教師』より引用
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このやうに風の吹く日は、頭をかきむしらるゝ心地して、筆とること能はず。
大町桂月『千川の桜』より引用
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二人はその草の上に腰を下ろして、水を見つめながら釣りをいたしました。
また風の吹く日には、いっしょにくりの実を拾って歩きました。
また枯れ枝などを拾ってきて、親の手助けなどをいたしたこともありました。
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小川未明『星の世界から』より引用
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なのに季節の風や雨は同じに受けている。
それにしても、まったくもって容赦のない風の吹く日であった。
あまりに強い風の音は死者の声をも消してしまい、タミエは難儀する。
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岩井志麻子『岡山女』より引用
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やがてその日が来た。
十月にしては晴れていながら、いやに生温かい風の吹く日だった。
会は三時からで、早ひるで出掛けることにし、その支度をしていると、手伝っていた祖母がどうしたことか不意に横に倒れた。
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志賀直哉『城の崎にて・小僧の神様』より引用
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しかしもっと特殊な例としては、芋虫を見るとからだがすくんでしまう人や、蜘蛛がはい出すと顔色を変えるようなのもある。
中学時代の同窓で少し強い風の吹く日にはこわくて一歩も外へ出られないのがあったが、その男はまもなく病死してしまった。
やはりどこか「弱い」ところがあったのかもしれない。
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寺田寅彦『柿の種』より引用
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それからまた二三日經つた、或る夜の十時頃の事だつた。
日の内から少し生暖かな風の吹く日で、窓の硝子には横なぐりの雨の滴が着いては消え着いては消えしてゐた。
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南部修太郎『病院の窓』より引用
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以前も一度上海郊外の工場を見に行った折に、いわゆる柳絮の漂々たる行くえを見送ったことがあったが、総体に旅客でない者は、土地のこういう毎年の風物には、深く心を留めようとはせぬらしい。
しかしそれはただ人間だけの話で、小鳥はこういう風の吹く日になると、妙にその挙動が常のようでなかった。
たて横にこの楊の花の飛び散る中に入って行って、口を開けてその綿を啄ばもうとする。
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柳田国男『野草雑記・野鳥雑記』より引用
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もう身を切るような風の吹く日であった。
チェーホフがいって見ると、ある地区の樹林を伐採するために駆り出された囚人たちのうち、一人の男が斧で足枷の鎖を切って逃亡しようとして、焦ったあまりに自分の足頸を切ってしまったというのだ。
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山田風太郎『ラスプーチンが来た 山田風太郎明治小説全集11』より引用
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お房さんの事など思ひ出して見るやうな機會さへなくなつてゐた。
夏ももう、衰へて、秋らしい白い風の吹く日だつた。
一人の老女が私の家の格子先に立つて、家の中を窺いてゐた。
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若杉鳥子『古鏡』より引用
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風速10メートル以上の風の吹く日が年間290日以上ある。
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それではまた行くといって、たちまちいずれへか走り去ってしまった。
その日はひどい風の吹く日であったということで、遠野一郷の人々は、今でも風の騒がしい秋の日になると、きょうは寒戸の婆の還ってきそうな日だといったとある。
これと全然似た言い伝えは、また三戸郡の櫛引村にもあった。
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柳田国男『山の人生』より引用
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そこで体を冷やしてからBに入場、何か書く。
ここの冷房は圧しが軽いので、風の吹く日には時々外出する。
さて六時になると、銀座のスコットの本店で、道楽半分に母屋の二階で、前に階下でレストランをやっていた頃来て知っている人だけにたべさせている下北沢スコットの、元の階下にこの頃入った、いかす料理店の鶏の紅葉やき等を折に入れて貰い、又Bに舞い戻ってバタトオストを取って夕食である。
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森茉莉/早川暢子編『貧乏サヴァラン』より引用