鈍色
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名詞
294 の例文
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森も畑も見渡すかぎり真青になって、掘立小屋ばかりが色を変えずに自然をよごしていた。時雨のような寒い雨が閉ざし切った鈍色の雲から止途なく降りそそいだ。低味の畦道に敷ならべたスリッパ材はぶかぶかと水のために浮き上って、その間から真菰が長く延びて出た。
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鈍色の曇り空をそのまま映した貧しい水田と、その泥に塗れた百姓と牛。まとわりつくのは血を吸う虫ばかりだが、その虫も吸っているのは血ではなく泥だった。
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妓夫台につくのは定九郎ひとり、売れっ妓には見世を張らせず、他の妓たちも夜見世に備えて四時前には下がらせることになっている。鈍色の光の中に座っていると、定九郎は時折、奇妙な幻想に取り憑かれる。自分の身体が台から剥がれなくなり、その上だけが生きる場となる空想だった。
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重い鈍色の鉄の矢が、白い服に突き立っていた。
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母上珍らしく食堂で御食事をなさる。ゆうべよなか近くなってから考えた「鈍色の夢」の筋書を母上にお見せする。どうかしてよく書きたい。
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北川氏は、その中を、独りストレンジアの様に、狂気の歩行を続けていた。行っても行っても果しのない、鈍色に光った道路が、北川氏の行手に続いていた。あてもなく彷徨う人にとって、東京市は永久に行止りのない迷路であった。
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どんな曇っていても、たとえ雨でも、夜空というものは黒一色ではない。星や月の気配を感じさせる明るさが、鈍色の天に潜んでいる。だが今、この窓の外には、空も庭も区別がつかないほどの漆黒の闇が漂っていた。
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それでは、あの槍のような傷跡の説明ができない。景行のいる場所を大きくはずれて、鈍色の刃物は飛び去っていった。その直後、 「うっ」 火矢を収めていた箙が、景行の腰から撥ね飛んだ。
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このあたりの冬の夜は、いつやってくるのかわからない。鈍色の空を覆った無数の微細な雪が闇に溶けたとき、日暮れを知る。雪が小止みになったその夕方、私は棺の置いてある座敷から縁先に出た。
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かれらは石に積った雪をはらいのけてその上に腰をおろし、思い思いに教科書の入った布袋を雪の上に置いた。かれらは、黙ったまま、鈍色に光る凪いだ海の方に眼を向けた。その眼には、一様に気ぬけしたような弱々しい光がうかんでいた。
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ここ最近は、ずっとその思いがセドリックの体の隅々までを支配している。彼が顔を上げると、鈍色に光る魔法光がすうっとアンの手の中に消えていくところだった。どうやら封呪がうまくいったらしい。
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言い換えれば、ひらめきは、準備している者のもとへはかならずやってくる律儀な小鳥なのだ。準備をしていない者は、灰色の脳細胞は灰色のままだし、鈍色の眼はいつまでも鈍色のままであろう。ひらめきは、日々の努力と研鑽があってはじめてやってくるのであって、精励や熱意のないところに残念ながらひらめきはノックさえもしてくれない。
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正午近く、三々五々尾山屋の座敷に集結した六人は、思い思いの食事を摂って腹をこしらえた。この日は昼になっても頭上の空は鈍色に翳り、いつ雪が降り出しても不思議ではない空模様であった。雪になってもならなくても、六人は身ごしらえから異様さを人に察知されないよう、菅野邸に走る時は合羽を羽織ることを申し合わせてある。
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女の体が小刻みに震えていた。薄く開いた鈍色のまぶたから、まるで涙のように真新しい血が流れ出した。
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一センチ、また一センチと鈍色の金属に形を借りた殺意が降ってくる。
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お髪は、尼そぎといっても形ばかりなので黒髪はお背に広がっている。鈍色のお召物は、少女のようなかわいいお顔にまだしっくり、しない。なまめかしく美しい尼である。
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桂介も、シートを倒して横たわった。フロントガラスの中に、湖岸の裸になった樹々の梢が見え、空は鈍色である。また、手を伸ばして彼女が誘った。
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