鈍色
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名詞
294 の例文
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一瞬、床がどくりと脈打った気がした。男の手の触れた場所が金属に変化し、鈍色の帯となって葉に向かって走る。しかし、その時には彼女はすでにもとの場所にはいなかった。
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洞窟に棲み、闇に潜む超自然の存在を怖れ、風の音にも怯えていた、哀れな穴居人の群れへと。早朝には晴れ渡っていた空は、どんよりとした鈍色の雲に覆われていた。驟雨は一段落していたものの、いつまた降り出すかわからない。
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手摺りを越えてうっすらと霧が流れてくる。鳥の姿は消え、ついさきほどまで見えていた山々が鈍色の雲に覆われていた。「急ごう、吹雪になるかもしれない」 伝票を手に、平田は立ち上がる。
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ラムズベリーの飛行場が眼下を流れ去った。傾いた日の中にケネット河が鈍色の帯を解き捨てたようにうねっていた。丘を越えると前方にメンベリーの眺望が開けた。
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喪の期が過ぎて除服をするにつけても、片時も父君のあとには生き残る命と思わなかったものが、こうまで月日を重ねてきたかと、これさえ薄命の中に数えて二人の女王の泣いているのも気の毒であった。一か年真黒な服を着ていた麗人たちの薄鈍色に変わったのも艶に見えた。姉君の思っているように、中の君は美しい盛りの姿と見えて、喪の間にまたひときわ立ちまさったようにも思われる。
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松平は依然、大阪城に視線を遣っている。大阪城上空の雲は重い鈍色を発し、少しずつ夜の気配に染まりつつある。
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次々と落ちてくるそれを見上げていると、鈍色の空に吸い込まれていくようだ。さとるは家に帰ろうかどうしようか迷った。
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白い長袖の体操服を着た清美の姿が薄らと硝子に映った。空は相変わらず鈍色の雲に覆われており、辺りはどんよりと薄暗かった。不意に窓の前に学生服を着た若い男が現れた。
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「どうやら雪になりそうだ」 話に加わらず窓の外を眺めていた寺岡が呟いた。先ほどまで雲一つなかった空が膠を混ぜたような重い鈍色に変わっている。沼の縁からカプセルを掘り出して、もう二時間以上が過ぎていた。
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来月から私は専心に書こう。三月にならないうちに「鈍色の夢」も書けなければならないのである。精々丹精して書きあげたら又どうにかしてもらえる事を信じて居るより仕様がないのである。
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源氏は打ち解けた姿でいたのであるが、客に敬意を表するために、直衣の紐だけは掛けた。源氏のほうは中将よりも少し濃い鈍色にきれいな色の紅の単衣を重ねていた。こうした喪服姿はきわめて艶である。
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源氏もなんとなく身にしむふうにあたりをながめていて、しばらくの間はものが言えなかった。純然たる尼君のお住居になって、御簾の縁の色も几帳も鈍色であった。そんな物の間から見えるのも女房たちの淡鈍色の服、黄色な下襲の袖口などであったが、かえって艶に上品に見えないこともなかった。
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それを今のアブサロムと合体させている。アブサロムの体のほとんどが、関節のみを残して鈍色の鎧に覆われた。そして、一気に階段を駆け上がって「黒の彼方」に殺到する。
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軒の低い銃砲店には、小柄な店主がいた。銃架には新旧様々な銃が並び、その暗い鈍色をひっそりと光らせていた。すでに亡い祖父が持っていた村田銃とは全然違う。
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自分は人生の饗宴から追われた存在なのだ。彼は眼を、ダブリンへ向って曲りくねって流れて行く鈍色に光る河へ転じた。河の向うに、貨物列車が、ちょうど火の燃える頭を暗闇にうねる虫のように、頑固に、根気よく、キングズブリッジ駅から曲りくねって出てくるのが見えた。
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そしてさっきのふしぎな様子は跡方もなく消え去ってしまいました。破風はもうそれほど高く聳えてもいないし、古びたにぶ色になっていました。行き会う人達も本当に知った人達ばかりだったし、出会ったとき、僕だということがわかると、喜んだり、驚いたりしてくれました。
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一センチ、また一センチと、鈍色の金属に形を借りた殺意が降ってくる。
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