遮るものなく
18 の例文
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しかしその眺望のひろびろしたことは、わたくしが朝夕その仮寓から見る諏訪田の景色のようなものではない。水田は低く平に、雲の動く空のはずれまで遮るものなくひろがっている。遥に樹林と人家とが村の形をなして水田のはずれに横たわっているあたりに、灰色の塔の如きものの立っているのが見える。
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一度怒り出すと止め様がない暴れ者で、喧嘩をすれば相手が死ぬまで容赦しない。このため近隣一帯で没遮攔、遮るものなしと渾名され恐れられていた。李俊、張横とは縄張りを接する兄弟分である。
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男が登っただけ、夜景は低くなっていた。一本の街路が、いかにも全部をむき出しにした感じで遮るものなしに露わに見えている。くるまのヘッドライトが次々に現われては消えている。
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台などで遮られない場合でも、作品完成まで作者は作品後方に立ち、正面から出来ばえを確認することはない。作品の後ろ側を見せず、いけ手が観客に背を向けないことが特徴で、観客は作品がゼロから展開していく様子を遮るものなく終始鑑賞できる。
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労務者が詰まっている。左右共に眼を遮るものなし。右手遠くに山脈を見るだけである。
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両手を合わせてまっすぐ上げ、ぐっと背を伸ばす。長い木の橋のずっと向こう、遠い対岸まで、遮るものなく、朝日が白く地上を照らし出しているのが見える。これを浴びろ、と。
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この設計は最初チャールズ・ブリッジマンによって行われ、ブリッジマンは庭を細かく区画することを嫌い、大きく意匠することに努めた。庭と外界の境に一種の掘割であるハハーを導入して、何遮るものなく眺望が周囲の自然に溶け込んでいくように工夫した。ストウは以後、ブリッジマンと協同したジョン・バンブラー、ウィリアム・ケント、ジェームズ・ギブズ、ランスロット・ブラウンといった名手たちが次々に手を加えた記念碑的な庭園となる。
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滝太郎は早速に押当てていた唇を指から放すと、薄月にきらりとしたのは、前に勇美子に望まれて、断乎として辞し去った指環である。と見ると糸はぷつりと切れて、足も、膝も遮るものなく、滝太郎の身は前へ出て、見返りもしないで衝と通った。そのまま総曲輪へ出ようとする時、背後ではわッといって、我がちに遁げ出す跫音。
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十時、ゴビ、小石多くなる。左右眼を遮るものなく、大ゴビのまっただ中を、ジープは五〇キロの速度で走り続ける。十時二十分、路面に砂が舞い出す。
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天蓋には相変わらず一片の雲もない。なんら遮るものなく、満月は星明かりを従えて地上を見渡している。その中を峻護は歩く。
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その当時、その家からは、ダイヤモンドヘッドまで何も遮るものなく、2階からはプナホウスクールが見えたものである。クックの事業が成功を収めたため、彼らは自ら美術品の収集を始めた。
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間に眼隠し用の他の車をはさむためだった。その短い間に、前を行くポルシェの車内が、野々山とマリの眼に遮るものなしに見とおせた。ポルシェの助手席の河合良子は、運転している派手な格子柄の中年男のほうに顔を向けて、何かしきりに話していた。
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気がつくと背中に着物や食料を押込められるだけ押込んだリクサクを背負つてゐるので、それを取りおろし、よろけながら漸く立上り、前後左右を見廻して、佐藤はこゝに初て自分のゐる場所の何処であるかを知つたのである。広い道が爪先上りに高くなつてゐる端れに、橋の欄干の柱が見え、晴れた空が遮るものなく遠くまでひろがつてゐて、今だに吹き荒れる烈風が猶も鋭い音をして、道の上の砂を吹きまくり、堤防の下に立つてゐる焼残りの樹木と、焦げた柱ばかりの小家を吹き倒さうとしてゐる。
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高い料金を払って前のほうに行くと金網で視野を不快にさせられる不条理。やむなく、選手やフィールドを遮るものなく見渡せる地点まで遠ざかると、愛すべき選手たちは豆粒のごとくにしか見えない。もちろん、最前列のフェンスに体を預け、グラブを手にファウルボールを待ち受ける少年などいるはずもない。
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海には高波が立ち、それが浅瀬と砂浜にザブン、ザブンと打ち返し、波音は汐けぶりに煙る陸に陰々とひびいている。水平線は灰色の霧に消えて、一望渺々として遮るものなく、雲は大きな岩のように層々と重なり、海上いちめんに、なにか不吉な運命の前兆のような「唸り声」をたてている。浜のあちこちに黒い人影があるが、それもときどき半分霧に包まれて、歩いている立ち木みたいに見える。
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スウの家の前で車を止め、圭子は短くクラクションを鳴らした。白い炎になった太陽が遮るものなく真上から撲りつけている住宅地は、どの家もブラインドや厚いカーテンを閉ざして息をひそめ、大きな柩が並ぶ墓地に化したようだった。手入れが届いた芝生の前庭の奥に、ポーチの白い円柱が眩しく陽を撥ねているスウの家も物音ひとつ聞こえず、玄関脇の花盛りの合歓の木が、喪章のように濃く短い影を足もとにつくっている。
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住所だけは聞いたことがあるという征人の記憶を頼りに、墨田区菊川町にある清永家を訪ねたことが、以後の二人の運命を決定づけた。三月の大空襲でもっとも大きな被害を受けた地区らしく、墨田区一帯は焼け焦げた木材が林立する焼け野原と化していて、遮るものなく見渡せる地平線の向こうには、富士山の頂さえ眺望できるありさまだった。方々尋ね回って捜し当てた清永家も焼け落ちており、かつての家屋の敷地内に掘っ立て小屋が建てられ、清永の両親と弟妹たちが肩を寄せ合うようにして暮らしていた。
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