芽ぐめ
30 の例文
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私が『破戒』を書いてゐるうちに『春』は既に私の内部に芽ぐんで来た。それから『春』を書いてゐるうちに私は『家』を書くことを思ひ立つてゐた。
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叢も芝生も枯れている。地面は物の芽ぐむのを許さない冷え切った土、空は暗澹とした冬の雲。太陽の暖かい光りを受けない一面の灰色だ。
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それまでやっていた仕事にだんだん失望を感じ始めた。新しい生活の芽が周囲の拒絶をも無みして、そろそろと芽ぐみかけていた。私の目の前の生活の道にはおぼろげながら気味悪い不幸の雲がおおいかかろうとしていた。
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草を藉いて仰向に寝転ぶと、直接に私の上に空がある、高原で見らるるすぐ手に取らるるような低い空が、秋の澄み切った冷やかな空が。そして私の下にはすぐ大地がある、草木を枯らしまた芽ぐます黒い土地が。顧ると、小さな甲虫が私の顔のすぐ側に這い出している。
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自然はあせらず、懼れない。枝が柔らかくなって葉が芽ぐめば、夏の近きことを知るではないか。エレミヤは巴旦杏の枝が花をつけたのを見て、エホバの目覚めを知った。
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もう芽ぐんだ桜の枝やザクロの枝を押しつけて、柔い雪が厚くつもった。床の間には桃が活けてある。
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朽ちた落葉の下からも、いつか春が芽ぐむではございませぬか。
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厚い毛皮の陰に北風を避け、獸糞や枯木を燃した石の爐の傍で馬乳酒を啜りながら、彼等は冬を越す。岸の蘆が芽ぐみ始めると、彼等は再び外へ出て働き出した。シャクも野に出たが、何か眼の光も鈍く、呆けたやうに見える。
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光は次第に影つてしまひ、暗に町は沈んで行つた。兵は長い戦も終へ、静かな心のゆとりの中に、かすかな信仰の願ひさへ芽ぐんでゐた。広瀬川原は河鹿のなく、寂びまいぞ寂びまいぞと張る感情に、何時しか京洛外の、典雅な焚事の思ひ出が写つてゐた。
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こうするうちに、春もだんだんに近づいてきました。しかし、まだ木が芽ぐむには早く、風も寒かったのであります。ただ雲の切れ目に、ほんのりと柔らかな日の光がにじんで、なんとなく、なつかしい穏やかな日がつづくようになりました。
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この場合「枯れ木には花も咲かず実もならないように」とつけ加えるのは、どんなものか。枯れ木のなかには、春がくれば、また芽ぐむものもあるだろう。「死んだ子は賢い」 「死んだ子に阿呆はない」 「死んだ子の年を数える」 といって、死んだ子を懐かしむあまり、若くして死んだ者を美化するひとがいるが、わたしは反対だ。
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筍を早く生やすには、竹山へ六七尺の堆肥をするのだが、一寸か二寸位に延びた筍は、三冬すでに地中に横たはつてゐるのだ。尤もさうしたのはあまかはばかりで、肉はまだ芽ぐんでもゐぬ。孟宗がお袋にねだられて雪中掘つたといふは、さうした小さなものであつたらう。
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小鳥はどこからともなく飛んできて、こずえに止まってさえずりはじめました。庭の木立も芽ぐんで、花のつぼみは、日にまし大きくなりました。おじいさんは、やはりこたつにはいっていられました。
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こうしてしつらえに気をくばり、手をわずらわしたひとの気持を思うと、それはわたしにはたいそうな値打ちものにみえ、わざわざたててくれたわたし好みの家で、そんな女友達の客となるのは、ほんとにうれしいことだった。四、寒い時侯で、まだ雪さえのこっていたが、大地は芽ぐみはじめていた。スミレやサクラ草が見え、木々の芽はふくらみだしている。
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主 なるほど、あれは今の処で夢中で奉公しているが、 早晩心の澄む境へ己が導いて行って遣る。見い、植木屋でも、緑に芽ぐむ木を見れば、 翌年は花が咲き実がなるのを知るではないか。メフィストフェレス どうです、檀那、何を賭けますか。
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バイロニズムに浮かされかかっていた少年にはそれ相応な幼稚な不満があって、それが一廉の見識でもあるかのように思いなされるのである。鶴見少年にも思想らしいものが、内から甲を拆いて芽ぐんでいる。そこに見られるのは不満の穎割葉である。
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室の中には、庭前に芽ぐむ芝生の緑と共に、広い春が吹き込んで来る。
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それは兎に角、思い切って作意を変えてしまったらどうだい。荒廃の中に蔵されてる芽ぐむ力といったようなものに。
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むしろ古い問の代りに新らしい問を芽ぐませる木鋏の役にしか立たぬものである。三十年前の保吉も三十年後の保吉のように、やっと答を得たと思うと、今度はそのまた答の中に新しい問を発見した。
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その間を切り抜けようとして『パリュード』の主人公は「私は polders を書く」と云った。果して泥沼に埋立てられて、新しい土の香に『地の糧』が芽ぐみ出た。「私」がその言を食まなかったことは、ジッドにとって、又我々にとって、深い悦びである。
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窓の外は思いの外の木立で、やや芽ぐみ始めた枝の間から、遠く富士も見えるでしょう。丁度それは美しい初春の昼ごろでした。
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子供は犬と戯れつつ、あるいは建物の四階の窓からリボンをつき出している友達と声高にしゃべりつつ、絨毯の番をした。中庭の光景のあちらの空に芽ぐんだばかりの緑色に煙る菩提樹の大きな頂が見えた。煉瓦の赤い建物がそこにあるので、菩提樹の柔い緑色は一そう柔く煙のように見える。
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すると、私は妙にそれが小憎らしく、また、訳のわからない嫉妬が芽ぐんで来る。
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なお、秦は自身の2枚目のアルバム『ALRIGHT』の初回盤ボーナストラックにてセルフカバーしている。「芽ぐむ」は「萌え」の語源を調べた時に見つけた言葉をタイトルに付けたもの。パン屋の研修生がたまたま以前の恋人と同じ名前であったことから着想された曲で、歌詞中にもそのことが示唆されている。
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水沫を浴びた石の間には、疎に羊歯の葉が芽ぐんでいた。
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その時はただ傷をのみ感ずる。芽ぐみのおののきと実を結ぶ喜びとは、後日にしかやってこない。マリユスは陰鬱になった。
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世間の尊敬の中で暮らすのは、假令、勞働者の尊敬に過ぎないとしても、「日向で、靜かに氣持よく坐つてゐる」やうである。晴朗な内なる想念は、光を受けて芽ぐみ、花を開くのである。私の一生のこの時期に於ては、私の心は、憂鬱に沈むよりも、感謝に溢れることが、はるかに屡々あつた。
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愛すべき我よ、尊むべき数多なる人々の群よ。私はどんなに芽ぐむこの春を歓び迎る事であろう。
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