狂わしい
全て
形容詞
137 の用例
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左方の丘を縁どる雑木林の前に、一本の枯木が白い樹幹を光らせて倒れていた。
その狂わしく空へ張り上げた根の一条一条も、私は数えることが出来た。
私は銃を肩からはずし、斜めに構えて、野に歩み入った。
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大岡昇平『野火』より引用
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障子を押しあけてこの一間へ入って来たのは、今まで泣いていたお君でありました。
お君の振舞はいつもとは違って、物狂わしいほどに動いてみえました。
それでも入って来たところの障子は締め切って、そして能登守の膝元へ崩折れるように跪ずいて、 「どうぞ御免下さりませ」 と言って、やはり泣き伏してしまいました。
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中里介山『大菩薩峠』より引用
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まえにもこんなのをみたことがあったが、どこだったろう?
まえにどこかでみたことがある、とラヴィックは狂わしそうに思った。
すると、ふと思いだした。
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レマルク/山西英一訳『凱旋門(下)』より引用
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それを狂わし壊してしまうと一体何が起こるのか、私にも分からないんです。
むぅ『「未来に向かって」』より引用
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と彼はやけに首を振った、そんな迷信で生活の調子を狂わしてはいけない。
子供とはいえ、一人の存在を弄んではいけない。
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豊島与志雄『子を奪う』より引用
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リザヴィータ・プロコフィーヴナは彼に飛びかかったが、なぜかしらその手を堅くつかんでいた。
彼女は彼の前に立ったまま、物狂わしい眸を据えてじっと彼を見つめていた。
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ドストエフスキー/中山省三郎訳『白痴(上)』より引用
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実際、その自然哲学を没落せしめ延いてその体系全体を没落に導いた処のヘーゲル的説明方法の秘密は、自然哲学の領域ではまだただ漠然としてしか意識されなかったのに、すでに社会科学の領域に於ては判然と意識化されたのであった。
十九世紀は自然科学が目ま狂わしい発達を遂げた世紀であった。
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戸坂潤『現代哲学講話』より引用
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それと一緒に狂わしい馬の嘶きと、助けを呼ぶ外国人の声とが乱れて聞えた。
馬が狂い出して厩の羽目板を蹴っているのだ。
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夢野久作『暗黒公使』より引用
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予はもの狂わしきまでにこんなことを考えつつ家に帰りついた。
犬は戯れて躍ってる、鶏は雌雄あい呼んで餌をあさってる。
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伊藤左千夫『紅黄録』より引用
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と、罵った。
狂わしい声が続けさまになおその唇から走るのだった。
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吉川英治『宮本武蔵』より引用
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好色なお心を遣る瀬ないものにして見せようと源氏が計ったことである。
実子の姫君であったならこんな物狂わしい計らいはしないであろうと思われる。
源氏はそっとそのまま外の戸口から出て帰ってしまった。
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与謝野晶子『源氏物語』より引用
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われわれはすぐに引き上げられて、露台に下ろされ、そこから件の豪奢な広間に降りると、そこへ間もなく、今宵は今までにまして一段と美しくなった乙女がやって来て、われわれと一緒になった。
さて私は、教王が物狂わしいほどに心を奪われておしまいになったのに、気づいた。
けれども、彼女が歌い出したときには、もう錯乱であった。
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佐藤正彰訳『千一夜物語 05』より引用
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僕はそのひと夜を境にして、あらゆる女に興味を失ってしまった。
あの物狂わしいひと夜の激情で、僕の愛慾は使いはたされてしまった。
ああ思い出しても、からだが震え出すようだ。
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江戸川乱歩『江戸川乱歩全短編03 怪奇幻想』より引用
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しかし、それらは七人の男たちの分取品とされた。
女たちの狂わしく泣く声もいつか無言のあきらめの中に沈んであかつきが来た。
朝のあかるみが来た時その女たちは自分等の家であった灰の近くにしろっぽいひと塊りになって力なく伏していた。
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松村みね子『剣のうた』より引用
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女は物狂わしいようになって、泣き出してしまいました。
中里介山『大菩薩峠』より引用
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小山田氏も同様、静子夫人を打擲するばかりでは満足ができなくなってきたことは、容易に想像できるではありませんか。
そこで彼は物狂わしく新らしい刺戟を探し求めなければならなかったでありましょう。
ちょうどそのとき、彼は何かのきっかけで、大江春泥作「屋根裏の遊戯」という小説のあることを知り、その奇怪なる内容を聞いて、一読してみる気になったのかもしれません。
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江戸川乱歩『江戸川乱歩全短編02 本格推理Ⅱ』より引用
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しかしマヌエラの目は、狂わしげなものを映してぎょろりと据っている。
ひょっとすると心痛のあまり気が可怪しくなったのかもしれない。
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小栗虫太郎『人外魔境』より引用
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考えられる原因はただひとつ。
あの娘の容赦のない一撃が、俺のユニットのどこかを狂わしたのだ。
俺は身体からしたたる水滴にも構わず、ベッドの横の戸棚に駆け寄った。
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川又千秋『狂走団』より引用
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しかし、残念ながら、それはできない相談であった。
私は狂わしいまで彼女に恋していたが、そうした情熱の片鱗も見せなかった。
彼女から色よい返事をもらえるなんてことは、考えるさえ身の程を知らぬことだと思われた。
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カザノヴァ/田辺貞之助訳『カザノヴァ回想録 第二巻』より引用
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いいえ、ほとんどどころではないわ。
とてもひどく興奮して物狂わしく喜んでいてよ!
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エミリー・ブロンテ/大和資雄訳『嵐が丘』より引用