濡れ
全て
動詞
名詞
14,014 の用例
(0.02 秒)
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岩場は終っていた。
しかし急な草付は濡れたためか辷り勝で、同時に行動する事を許さない。
やがて草は笹に変った。
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小川登喜男『一ノ倉沢正面の登攀』より引用
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ついに出合からちょっと下ったところで川の中へ飛込んでしまった。
深さは一尺くらいだったらしいが転んだため腰から下全部濡れてしまう。
この調子ではスキーを折る恐れがあると思ったので、ちょっとした岩陰で露営する。
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加藤文太郎『単独行』より引用
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断崖と丘の硲から、細い滝がひとすじ流れ出ていた。
滝の附近の岩は勿論、島全体が濃い霧のために黝く濡れているのである。
木が二本見える。
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太宰治『猿ヶ島』より引用
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椿の葉蔭では目白が鳴いて居た。
涙だけは二人とも堪えたが、二人の眼差は濡れた月のやうに霑むで居た。
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牧野信一『喜びと悲しみの熱涙』より引用
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玄竜は電車路の真中を狂犬のようにあてどもなく進んで行った。
もうぼうぼうの頭が雨に濡れて渦を巻き、肩は雨で重そうに垂れていた。
自動車が傍を掠めて走り電車は後ろの方で激しく警笛を鳴らす。
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金史良『天馬』より引用
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間もなく市ノ倉岳の斜面に薄日がさすと、ほっとした明い気持になって、再び行動が開始され、ロープがたぐられる。
もう八時間もの登攀を続けているので、この濡れた岩は実際困難であった。
幾度かロープを引緊めては、かなりの時間を要して登って来る。
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小川登喜男『一ノ倉沢正面の登攀』より引用
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門前で俥を下り、高い石段を登りつめて甃の道を左に数歩行くと、大観門から左右に廻廊のある青蓮堂が眺められる。
黒い甃と朱の建物が、明るい細雨に濡れて一種の美しさを漂わせていた。
私共は大庫裡の森とした土間に立って案内を乞うた。
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宮本百合子『長崎の印象』より引用
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着替えや雨合羽、長靴などをあらかじめキャビンに投げ込んでおき、水着でプールに入ってスピードボートに上がって着替えをした。
キャビンには半分ほど屋根があり、その奥にいるとさほど濡れなかった。
台風の進路のなかで、庭のプールは小さな荒海となった。
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片岡義男『ラハイナまで来た理由』より引用
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雨に濡れている両側の草が気持悪く脛に当る細道を抜けて、通りに出た。
道の傍らには、節を荒けずりした新らしい木の香のする電柱が、間隔を置いて、何本も転がさっていた。
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小林多喜二『不在地主』より引用
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雨が続くと私の部屋には湿気が充満します。
窓ぎわなどが濡れてしまっているのを見たりすると全く憂鬱になりました。
変に腹が立って来るのです。
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梶井基次郎『橡の花』より引用
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上原が夜目にも白いハンカチを出してよこした。
ぼくは鼻の下が濡れていることに気づいて、それで拭うと黒く染まった。
鼻は痺れたようにまだ痛かった。
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佐野良二『闇の力』より引用
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駐車場ぜんたいが明かりのなかにあった。
停めてある自動車の濡れた屋根の列が、明かりを受けて鈍く光っていた。
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片岡義男『少女時代』より引用
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私達は浜へ出た。
何処までも続く砂は 一ぱいに夕焼を受けて、 黄金と紫に濡れて居る。
海は猶更、 大きな野を焼くやうに、 炎炎と燃え広がり、 壮厳な猛火の楽が聞える。
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与謝野晶子『晶子詩篇全集拾遺』より引用
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蔦代は唇を引き歪めながら、涙に濡れぎらぎらと光っている目を上げた。
佐左木俊郎『恐怖城』より引用
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けれど、そんなことはどうでもよいのだ。
靴の中がじめじめしてるのが、服の濡れたのよりは、私には気になる。
靴の中のじめじめよりは、心の湿っぽいのが、一層悲しいのだ。
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豊島与志雄『山上湖』より引用
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この地上では人間を苦しめる謎が多すぎるよ。
この謎が解けたら、それこそ、濡れずに水の中から出て来るようなものだ。
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中山省三郎『カラマゾフの兄弟』より引用
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部屋の外の暗らい廊下に濡れきつた重い雨戸がおりてゐたが、その廊下を忍び足で歩いて通つた一人の気配も思ひだすことができないのだ。
思ひだす多くのことが、それほど重く濡れた感じで、侘びしいのである。
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坂口安吾『吹雪物語』より引用
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私がその掛茶屋で先生を見た時は、先生がちょうど着物を脱いでこれから海へ入ろうとするところであった。
私はその時反対に濡れた身体を風に吹かして水から上がって来た。
二人の間には目を遮る幾多の黒い頭が動いていた。
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夏目漱石『こころ』より引用
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それから、タオルと叫んだ。
女中がもってきた新らしいタオルで、濡れた髪と肩とを拭いてやった。
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豊島与志雄『死の前後』より引用
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その関心の中で、一番強いのは、やはり娘の体への本能的な好奇心だった。
雨に濡れたあとの動物的な感覚が、たしかにその本能へ拍車を掛けていた。
ことに、裸の娘と深夜の部屋に二人きりでいるという条件は、この際決定的なものであった。
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織田作之助『夜光虫』より引用