漂う霧
17 の例文
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まるでクレータレの外壁自体が呼吸しているかのような不安感をラタイマーは意識した。クレーターの上に漂う霧が、吐息のように動き、視界が悪くなってきたようだ。その靄は、先刻の音と同じように唐突に出現した物だった。
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そして玉座のそばには、こちらに背を向けて、長身の影が二つ、並んで立ちはだかっている。漂う霧も、彼らのがっしりとした肩の線を覆い隠すことはできない。頭の角を覆い隠すこともできない。
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その凄絶な美貌と深山幽谷に漂う霧の様な雰囲気に気圧されていた。白装束の青年は階段を優雅な足取りで降りながら頷く。
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のちに濠の一部にするつもりの古来からの大沼が茫々とひかり、遠く近く大竹藪がそよぎ、その中にまだチラホラと梅の残花が白く見える。薄く漂う霧は、もう完全に春のものであった。どこかで鶯が鳴いていた。
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というどよめきは、〈飛行アビリティ〉を初めて見たのであろうギャラリーたちのものだ。腐蝕林ステージに漂う霧と緑色の燐光を切り裂いて、ハルユキは飛ぶ。腐れバオバブの上部にずらりと並ぶギャラリーたちを掠めるように、なおも上昇。
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「会ってみたかったのだがな」 海上を漂う霧はここからは見えず、窓から差し込む陽光が操舵長や信号員の横顔を照らしていた。眉をひそめたワイズの視線を避けて、オブライエンはひと息にラッタルを下った。
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空の青がおぼろに暗くなっていくことから生まれた、紫がかる闇が、うなりをあげる丘に迫ってきていた。やがて稲妻がまた走り、今度はさっきよりもやや明るく、村人たちはその稲妻によって、はるかな高みの祭壇めいた石のまわりに漂う霧のようなものが照らされたように思った。しかし誰一人として、このとき望遠鏡を使っている者はいなかった。
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柳の葉のように斜めに流れた眉の下で、彼女の視線は私の額の絆創膏をかすめてから、まっすぐに私の目を覗いた。朝まだきの谷に漂う霧に似た、柔い灰色の眸だった。
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今夜中に街を出るつもりなのだろう。機能的だが質素な、一目でロマヌアのそれとわかる荷馬車が、うっすらと漂う霧をかき混ぜて通りを南へ去っていく。年老いた馬丁が一人、欠伸まじりに同じ門から現れ、玄関の前に二頭の馬をひき出した。
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「ええ」 秀子は、静かにドアを閉めた。廊下の明りが遮られて、寝室は暗く沈んだが、秀子の、白いネグリジェが空中を漂う霧のようにうっすらと見えた。妻がわきへ滑り込んで来ると、山上は、その肩へ腕を回した。
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長辺は藍色の虚空にそびえて見えず、短辺でも五キロはありそうな二等辺三角形が、一歩進んだところから見上げると、まぎれもない正方形に変わり、高さ五〇〇メートル、縦横三〇〇〇メートルに一〇〇〇メートルは下らぬ長方形の建物の連なりが、瞬きひとつで忽然と消滅してしまう。わずかに漂う霧の魔術というよりも、光の屈折がどうにもおかしなところからして、空間そのものが四次元的に歪んでいるらしかった。二人の足下にも大階段が螺旋状に地下へと巡っているかと思えば、広い道が人ひとりも入れそうもない建物と建物との間に消え、直径一〇〇メートルもありそうな大円柱が一五、六メートルで途切れ、そのくせ、二人の眼には何の違和感も抱かせない長大さを示しているのだった。
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漂う霧の間に浮かび、また消える、犇く人波に揉まれながら、未だ夢を見ているような心地がする。
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力尽きたか、ヴァルキュアの右手が刀身を離れて空中へ上がった。漂う霧がそれを包んだ。
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方向の見当をつけて身をよじると、左手後ろに〝嘆きの沼〟の黒光りする水面が見えた。湿地に漂う霧も見えた。すると沼のさらに後方に、ほんの一瞬ちらりとよぎったあの町は、きっとティアズヘヴンだ。
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それまでは静寂に満ちていた街路に、ゆっくりと異変が生じた。漂う霧の中に揺らめく影。風のない湿った大気を通じてさわさわと届く物音。
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雲の隙間から双月が顔を覗かせる。オルレアン公邸はラグドリアンの湖畔から漂う霧と、双月の明かりに照らされ、夜に妖しく浮かび上がった。
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