涙ぐましい
全て
形容詞
326 の用例
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それだけのことなのだ、だが、それだけのことが、あるものには人格まで変る重大な変化を起す。
その席がわざわざ自分のために設けられたということで涙ぐましくなる。
賤しく育った氏のない徒輩は、彼がたまたま高位高官のものと食事を共にしたということだけでも眼の色をかえて感激する。
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本庄陸男『石狩川』より引用
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誰も惜まぬ人はありません。
その小さいお姫様をよく育ててと、御熱心なのは涙ぐましいようでした。
長州からお輿入れになったとの事ですが、ただ美しいといっても、艶なのと違ってお品よく、見飽きないお姿でした。
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小金井喜美子『鴎外の思い出』より引用
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おれはときどき、すべての人々から脱れて孤独になる。
そしておれの心は、すべての人々を愛することによつて涙ぐましくなる。
おれはいつでも、人気のない寂しい海岸を歩きながら、遠い都の雑閙を思ふのがすきだ。
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萩原朔太郎『月に吠える』より引用
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それがこの才はじけた童女を、膝までぐらいな、わざと短く仕立てた袴と共に可憐にもいたずらいたずらしく見せた。
二人は寒さのために頬をまっ紅にして、目を少し涙ぐましていた。
それがことさら二人に別々な可憐な趣を添えていた。
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有島武郎『或る女』より引用
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その云い方がしんみりして嘘のようでないから涙ぐましい気もちになった。
田中貢太郎『萌黄色の茎』より引用
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二人は恋の極致にでも達したやうな涙ぐましさを感ぜずにはゐられなかつた。
田山録弥『アンナ、パブロオナ』より引用
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やがて弦之丞は、しっかりした声音で、かの女を見る目に愛熱の火をこめた。
涙ぐましいくらいな情思をかくありありと彼が見せたことはなかった。
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吉川英治『鳴門秘帖』より引用
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田原修治は鼻で笑った。
彼は涙ぐましい努力を続けて、最近やっと本物のスバルを手に入れたのだ。
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高木彬光『幽霊西へ行く』より引用
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お福は、十数年前、駿府城へのりこみ、白装束で大御所家康に直言した、あの猛々しい心情を思いおこしている。
そう言ってやりたいほど、摂家の姫へ対して涙ぐましい気持になっていた。
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堀和久『春日局』より引用
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父はその中に、蟋蟀を入れて、鳴き声に耳をすましているのです。
そうした父の姿が、阮東の涙ぐましい気持を、急に深くかきたてました。
瞼にいっぱい涙がにじんできました。
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豊島与志雄『三つの悲憤』より引用
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私たちは大きな海カタツムリに送られて、ぶじに故郷の浜辺にたどりつくことができました。
その海カタツムリは涙ぐましいほど私たちによく尽くしてくれました。
長い長い危険な航海をして、はるばると私たちを送ってきてくれたのです。
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ロフティング『ドリトル先生物語05巻 ドリトル先生の動物園』より引用
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岡野近松がいる。
その大部分が大身よりも小身の者に多いのは涙ぐましく感じられたことだった。
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大佛次郎『赤穂浪士(上)』より引用
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それがこの才はじけた童女を、膝までくらいな、わざと短く仕立てた袴とともに可憐にもいたずらいたずらしく見せた。
二人は寒さのために頬を真紅にして、眼を少し涙ぐましていた。
それがことさら二人に別々な可憐な趣を添えていた。
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有島武郎『或る女』より引用
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耕吉は叔父の厚意に感激して、酔って涙ぐましい眼つきをして言った。
そして初めて弟に一臂の力を仮すことのできる機会の来たことを悦んで、希望に満ち満ちて翌朝東京へ発った。
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葛西善蔵『贋物』より引用
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心の一番底まで届き、そして出るといふことで、簡単な業ではないのである。
それは一種崇高といつてもいい涙ぐましいほどの努め方をして始めて可能なのである。
それは何に向つても構はない。
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草野天平『詩人といふ者』より引用
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ただ、江葉の立場に立ったらいかなる名将であっても籠城をしたであろうし、その際に脱出のことまで深謀しろと求めても、無理な相談と言われるのが落ちであったと思われる。
江葉はそれでも涙ぐましい努力をしていたようである。
素乾城に秘密の地下道でもないかと一生懸命に捜したらしい。
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酒見賢一『後宮小説』より引用
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五人ある姉弟の中でも、彼女は父のそばに一番長く暮らして見たし、父の感化を受けることも一番多かったから、父のさびしさも彼女にはよくわかった。
彼女は父のことを考えるたびに、歩きながらでもときどき涙ぐましくなることがあった。
三留野泊まりで、お粂は妻籠に近づいた。
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島崎藤村『夜明け前』より引用
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育毛剤に次いで手軽なのはカツラで、最近は自然毛に人工毛をつけて増毛したり、ロープやネットに人工毛を植えつけたものを頭皮に張りつけるタイプなど、手のこんだものもある。
中には一つが数十万円という、涙ぐましくも高価なものまである。
最後に、医療技術として美容外科が行う植毛がある。
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宮田親平『ハゲ、インポテンス、アルツハイマーの薬』より引用
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女の身で革命運動にとびこんでくるのは、それだけで涙ぐましい感心な行為だからな。
武田泰淳『快楽』より引用
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原田が生きてさえいればこの原稿も当然彼の役どころで、なに三秀才だってそいつは面白いと、長髪ばらりと掻き上げて引き受けたことだろう。
それにしても彼が倒れた時の、加藤と中村との献身ぶりは実に涙ぐましかった。
原田は僕等三人の纏め役というか要というか、とにかく「方舟」の船長だった。
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福永武彦『第三随筆集 枕頭の書』より引用