気配が漂う
27 の例文
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少なくとも、デートではないように思われた。好きな相手に会うのならば、もう少し楽しげな気配が漂うのではないか。だが雅也からは、そんなものは微塵も感じられなかった。
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「私、総務の岸辺です」 「あ、はい」 「この前のお願い、考えてくれたかしら」 「ええ、まあ」 彼の背中が前かがみになった。片手を額に押し当て、まわりをうかがうような困惑の気配が漂っている。あまり女性馴れしていない性格だとは社内の噂から耳にはしていたけれど、佐希子にはその内気さとはにかみが好ましい。
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「おい、あのドアから最初に出てくるのは、男か女かカケよう」 芝居が終るまでにはまだ時間があるので、ドアから出てきた人は私たちに気づく。私たちは賭けているので、なにか曖昧な気配が漂ってしまうに違いない。それでは、失礼になるから、と、その賭はやめることにした。
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十月末のある日の午前、多摩少年院の広大な建物と農園を時雨がよぎって行った。もうここでは秋が色濃く、暁方はすでに初冬の気配が漂いはじめていた。この雨の日、少年院の正面玄関に、東京鑑別所から一台の護送車が到着し、なかから四人の少年がおりてきた。
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歳はまだ三十前だろう。ただ、尖った顎や目のまわりの薄い隈に、妙に窶れたような気配が漂う。八郎兵衛には気になった。
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しかしおふみが、相手にいやな心持を抱いた様子はなかった。男には父親同様の、いかにも律儀そうな気配が漂っていたからかも知れない。「いいわよ、ついてらっしゃい」 おふみは下駄を鳴らしながら、永吉の先に立って長屋に戻った。
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「美和子ちゃーん」と声援を送る男子生徒に、にこやかに手を振り返す美和子を見ていると、既に表情を繕うことすら忘れている貴子は、改めて友はスーパーな女だと実感するのだった。道端を歩いている生徒たちの後ろ姿には、既に終わりの気配が漂っていた。一、二年生にとっては今年最後。
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新館の一階からそのまま行けるのだが、そこの通路に入ると天井に幾本もの太いパイプが走っていて、壁の塗りも新館と違って古めかしい。検査室は地下にもあって、そこはさらに薄暗く、陰惨な気配が漂っている。各検査室の前にはベンチがあって、それぞれ何人もの患者たちが順番を待っているのだが、患者たちの表情は一様に暗い。
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古本市にはすっかりお祭りの終わりの気配が漂い始めています。私はなんだかとても淋しい気持ちになってしまって、とぼとぼと馬場を歩いていました。
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「息切れが、ひどい」 「情けないなあ、村上は」 村上は苦笑をかえす。あたりは鬱蒼とした常緑樹に囲まれて、もう夜の気配が漂っている。緑の匂い、土の匂い。
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「ようするに花粉症ってやつよね」 レストランのテーブルにつくなり鼻をかみ始めたぼくを見据えて、彼女は言った。その口調には同情とともに、どこか蔑むような気配が漂っている。
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そんな光景を横目に瀬戸口と石津はすばやく神社の林の中に身を隠した。ふたりとは反対側の、鬱蒼と葉を茂らせる林から浪厚な気配が漂ってきた。
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「こちらを探し当てるまでに、ずいぶんとてこずったものだな」 葉は怒りをこらえた。今は志乃の肉体から「カゲヌシ」独特の気配が漂っているのを感じる。しかし、「黒の彼方」の感覚は不安定で、ついさっきまで、どこに「ヒトリムシ」がいるのかを探り当てるのが難しかった。
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「ええ、もちろん」と、夫人は言ってゆっくり腰を上げた。書き物机に写真を取りに行く夫人の後姿には、あきらめの気配が漂っていた。写真を手渡されると、私は封筒と、折りたたんだクリーム色の紙も見せてくれるよう頼んだ。
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ふとんが敷かれていた。ふとんの中から熟れたような男女の気配が漂ってきた。女の喘ぎ声が洩れていた。
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ところが、その日、順右衛門を見かけたお由は、すぐに立ち去ることができなかった。それほど男たちの間には、ただならぬ気配が漂っていたからだ。順右衛門は三人の武士から何事か難詰されているように見えた。
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彼がそう言うのだから、二十数年間、吉野はさしたる変化もなしに過ぎてきたということかもしれない。空気は冷たいけれど、吉野の山にはどことなく穏やかな気配が漂っている。花の頃はなおさらであろう。
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