欲しいと思つて
17 の例文
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女中はいくら多勢ゐてもさう長くゐられるものではない。一人位は生涯家に居付いてくれる忠実な女中が欲しいと思つてゐた。おさきがそれなのだ。
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金が欲しいと思つてゐることなのである。
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耳で聞けば、なんでもなく解る程度の方言でも、文字で読むとさつぱり見当がつかぬといふ場合もある。上演する場合はなるべく前のテキストを使つて欲しいと思つてゐる。「犬は鎖に繋ぐべからず」は、これも、去年出した上演喜劇集中に加へたものだが、近作の喜劇として、やゝ代表的なものと信じるから、近作撰集たる今度の本にも載せておくことにした。
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みればそこには笛がおいてあつたのだ。子供が欲しいと思つてゐた紫いろの小さい笛があつたのだ。子供は笛に就いてなにごとも父に話してはなかつた。
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わかいその日の文学者はほんとうにその五千円を欲しいと思つてをられたやうだ。「男の方はようございますね、私も男ならきつと行きたいでせう」と私はため息をして、そして心の中では別の事を考へてゐた。
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僕は日頃大雅の画を欲しいと思つてゐる。しかしそれは大雅でさへあれば、金を惜まないと云ふのではない。
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もともと僕は非常に軽い冗談を言ふために、かうしてお喋りしはじめたのでした。さて、いよいよそれを言つてみますと、僕は別段プルウストのやうに、美しい婦人の友達を得て、自分の小説を語つてきかせる立場が欲しいと思つてはゐないのですよ。僕は少年の頃、学芸会の余興なんぞに、落語を語るのが得意でしたつけ。
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どうか此方の片腕が欲しいと思つて居た矢先だ。
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書物はどの室にも詰まるだけ詰まつたので、次第に廊下を侵蝕し、他の居室を侵蝕し、寝室の床の間の上まで書物の山積となつて了つた。起きるも寝るも書物の中に埋まつてゐるのは愉快なことでなく、さつぱりした一室を欲しいと思つてゐるが、そんな贅沢などはとても言へないのである。自分は五六の店から書物を買つてゐる。
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實際文太郎はそれ以來是非一枚あの牛肉屋で見たやうな油繪の額が欲しいと思つて居たのだが嘗て柱掛の鏡を買つて盛春館の女將に注意されてから殆ど斷念して居たのを昨夜ふと又出來心で所謂この油繪の額を買ふ事にしたのであつた。
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もう勝七師匠の門人で生き残つてゐるのは私一人で、私の在世中に誰かよい芸の持主が出れば古靱さんとも謀つて襲いで欲しいと思つてゐます。何しろ初代は西宮ですから中々の重い名跡です。
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啄木は大に宜しいが、万葉は暫く之を捨つべきであらう、その万葉の代りになるものとして私はここに晶子歌をとりあげて之を国民大衆に紹介したい。而してまだ諸君の全く知らない、日本にもこんなよいものがあるといふ事を分つて貰ひ、精神的食糧の一部にも当てて貰ふと共に来るべき新文化建設の礎にもして欲しいと思つて之を書き出すわけだ。さうは云ふものの私にも晶子歌の全体などとても分らない。
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私は東籬の記を読んで、ちよつとそんな風な住ひを想像するのである。放翁は五つの石瓮を埋め、それに泉を貯へて沢山の白蓮を植ゑたと云つてゐるが、私も出来ることなら、さうした水は欲しいと思つてゐる。今から三十年前、始めて京都へ赴任した時、千賀博士のところへ挨拶に行つたら、それは藁葺の家だつたが、客間の南は広々とした池になつてゐて、よく肥えた緋鯉が、盛んな勢で新陳代謝する水の中を游ぎ廻つてゐた。
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男たるものは、たとへわれらのやうな書齋の一文人にせよ、すでに日々の生活にも肚の底にも無言のうちに或るものを据ゑてゐる。が、この男たるものをして、小野寺十内のやうに、富森助右衞門のやうに、また磯貝十郎左のやうに、安んじて、笑つて、明日へ立ち向はせてくれるものの偉大な力を、世の男性は擧げて今日に欲しいと思つてゐるにちがひない。日々、職場へ向つて、朝家を立ち出るわが子、また良人へ、曠やかな安心を添へて見送ることでも、その一つである。
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かう云ふ遺憾は日本の各時代と各流派とを代表する美術品に就いても常に感じることである。私は紀州の徳川侯が南葵文庫を公開されたり、尾張の徳川侯が有名な源氏物語絵巻其他の貴重な美術品を先頃一部の人達に一日の縦覧を許されたりしたやうなことが続々行れて欲しいと思つて居る。今の若い芸術家は自分の国の芸術を知らないと云はれるが、知らうにも知る機会が非常に乏しいのである。
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返事は簡単に、音楽会には折角だが先約があつて行けぬとあり、この前話したことは、あの場合の自然の欲求で、人間の感情のはけ口は、実に意外な相手を発見するものだといふことを、はじめて教へられたと云ひ、最後に、別便小包で、しるしばかりの物を送つたが、福代の形見として納めてもらひたいと結んでありました。そして、着いた小包を開けると、丁度ひとつ欲しいと思つてゐた革のハンドバックで、色合と云ひ、手ざわりと云ひ、ことにその持ち頃の形と云ひ、飛びつくやうなものでした。こんなこともあつた、保枝は、やつと探しあてた加部家の墓地の前に立つと、そこに眠つてゐるはずの旧友福代の面影と、その夫たる加部錬之介のすがたとが、こもごも彼女の眼に浮んで、しばらく、気持の整理がつきかねるほどでした。
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