柔和な微笑
32 の例文
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振り向いてまた桂の顔を見た。柔和な微笑を浮べているその顔が、ふとパパのように錯覚される。
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いったい、節蔵は意識して「柔和忍辱の仮面」をかぶっているというのであるが、しかしその「仮面」のしたに、なんらひとにものを求める下心をかくしていないというのは、どういうことであろうか。お佐代さんもなんの下心もなくみずからを犠牲にして、こちらはそれと意識することなく柔和な微笑を浮かべていた。だが、この世になんらの下心をもかくさない「仮面」というものがあり得るとするならば、一見お佐代さんの素顔に見える柔和な表情も、同じ意味で、無意識につけられた「仮面」ではないかという疑いが浮かんで来る。
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これは形式的な問題ですが、この都市の滞在客が万一にでも悪い病菌をお持ちでは困りますからね。彼は柔和な微笑を見せ、僕等を応接室に案内した。そこに着くまでの間じゅう、僕は壁という壁を壁画で飾られたこの病院が、実に清潔で明るく、だいいち患者らしい人間に一人も出会わなかったのを不思議に思った。
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第十三章 ワトスン博士の回想録ジェファスン・ホープは猛烈に抵抗したが、なにもわれわれに対して乱暴をはたらく気ではなかったらしい。というのは、もうかなわぬと知ると柔和な微笑をうかべて、みなさんお怪我はありませんかとたずねたのである。
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「ラジオで、お聞きになったと思いますが」 男は、セールスマンのような柔和な微笑を浮かべた。
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ちらとそれを見た彼は、ふたりが原稿に気がついたのを知った。「芝居ならなにもスイスで書かなくてもイギリスで書けるでしょう」 問われてアシェンデンは、これまでよりずっと柔和な微笑を浮かべた。この種の質問には以前から心づもりができていたし、安堵して答えた。
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小柄で痩せた人である。柔和な微笑を浮かべている。かなりのお年寄りだ。
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いっそう身を硬くしたオードリーを見つめ、カーディアスは柔和な微笑を浮かべた。
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にこやかな笑みをふりまいている参議院議員の柏木美輪が歩み寄るのを待ち、先に乗るようにと、片手でシートを示した。天沼の妙にデコボコした小さな顔にも柔和な微笑が浮かび、たとえ教主でもレディ・ファーストは身についた習慣だとでもいっているように見えた。柏木美輪が、人々に向かってもう一回ていねいにお辞儀をして、車へ入ると、天沼は後ろに立っていた三十すぎの秘書が耳元で何事か囁くのに頷いてから、自分もゆっくりとシートにおさまった。
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その間に身内に宗意のことを相談したらしく、人里絶えた場所でも、毎々食事を運ぶのでは見咎められる惧れもあり、もし構わぬなら一緒に伽ノ森へお出でなさいませぬかとすすめた。女心よりは、あく迄温い人情がそれを言わせているのが柔和な微笑に感じ取れた。宗意は彼女の好意を享けた。
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観音開きの扉の奥に安置された観音菩薩は、頬にそっと指を当て、柔和な微笑をたたえながら、闇の中で展開する父と娘のやりとりを見つめている。「こんどの事件のおかげで、私は女優としての活動をつづけるつもりはもうなくなりました」 麻貴は、父との精神的距離を置くように、徹底した敬語でつづけた。
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警視はその顔を、鋭く光る目で見つめていた。死人は柔和な微笑をうかべて、上を見ていた。カークはもう一度生つばを呑んで、やや、はっきりした声で言った。
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「あの、お願いがあるんですけれど」 柔らかそうな長い髪をゆるく波うたせた女が、岸の近付くのを待っていたように言う。「何だね」 岸は柔和な微笑を泛べてその女を見おろした。ふっくらとした美人だった。
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そんな或る日、突然有里の家へ浦辺公一が訪ねて来た。有里はちょうど洗濯物を干していたが、肩を叩かれてふりむくと、そこに人なつこい公一の柔和な微笑があった。
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パーティーが終り、ホテルの日本庭園へ出て一同が記念写真を撮影したあと、清田はさりげなくオブライエンに近づいて、彼にだけ聞えるように言った。「これでやっと退役というわけですね」 「退役」 オブライエンは柔和な微笑を見せて尋ね返した。「停年でやめるのを退役とは言わないんですか、CIAでは」 オブライエンは下げた両手を腿の辺りでひらき、肩をすくめた。
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「聞かれたのは、秘太刀の中身ですかな」 いや、いやと中林は言った。いかにも上方商人を相手に商いの駆けひきをするのが役目の男らしく、目もとに柔和な微笑をうかべた。
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すると髪の毛は両肩の上に黒くゆたかにたれさがり、同時にそのふさふさした中に影と光が生まれて、彼女の容貌にやわらかい魅力を加えた。彼女の口もとにたわむれ、両の目からかがやき出るまばゆい柔和な微笑は、まさに女性の心底からほとばしり出てくるかのようであった。長いあいだあのように青白かった彼女のほおが、くれないの色に染まっていった。
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