柔かい
全て
形容詞
852 の用例
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お吉の背中から千春を抱き下して、東吾はその柔かい顔に頬ずりをした。
平岩弓枝『御宿かわせみ 24 春の高瀬舟』より引用
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そのつど、彼女はぼくを待っていた。
二度ほど彼女は引き返してきて、雪の柔かい所でぼくを起こしてくれた。
それからついに斜面はゆるやかになり、ぼくらは肩を並べてらくにすべった。
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イネス/大門一男訳『蒼い氷壁』より引用
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それから両手を胸の辺まで上げたが、左内を柔かくおさえるようにした。
国枝史郎『娘煙術師』より引用
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と留美は、肩と頬とで彼の手を柔かく挟みつけるようにしたままいった。
三浦哲郎『愛しい女』より引用
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そして時には、自分と自分の周囲とを忘却するために、憎んでいる女等のもとに走っては、獣の如きことを繰返した。
女等はその度に思い出して私を怨み、時には柔かな手で私の頬を打った。
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松永延造『職工と微笑』より引用
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しかもその音は続けてきこえるので、堀部君はなんだか気になってならなかった。
さっきから吹きつけている雪の音は、こんなに静かな柔かいものではない。
気のせいか、何者かが戸の外へ忍んで来て内を窺っているらしくも思われるので、堀部君はぬき足をして入口の戸のそばへ忍んで行った。
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岡本綺堂『雪女』より引用
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平野の上にもくり、もくりと山が立っている、この地方の眺めは或特色があります。
屋根を藁でふいている、その葺きかたが柔かくて特別な線をもっている。
人気はよくない。
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宮本百合子『獄中への手紙』より引用
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いい年増なんだが、娘のような若々しい肌と、柔かい声をしていますよ。
野村胡堂『銭形平次捕物控 10』より引用
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女の子は再び塵紙を丸めて、自分から圭太の鼻へ栓をしてくれた。
柔かい手が彼の肩にかかり、頬のあたりへかすかにそれが触れるのだった。
圭太は恥しそうに身をよけようとした。
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犬田卯『橋の上』より引用
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尚、このほかに女流音楽家というのがあるが、これにはあまり別嬪が居ないそうで、手固いのも珍らしくない。
手柔かいのでも、あまり民衆的ではないようだからここには敬遠する。
九州方面に特に音楽家崇拝者が多いために遠慮したものでないことを、特にお断りしておく。
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夢野久作『東京人の堕落時代』より引用
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彼の作品は私の心を打った。
チークに似た茶色の木で、先ほどの黒い木よりは少々柔かそうであった。
高さ四十センチほどのこの面はよく見ると死人の顔であった。
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豊田穣『南十字星の戦場』より引用
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手の中の柔かい肌触りがその決心をさらに固くするパルスを送っている。
阿智太郎『僕の血を吸わないで2』より引用
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席を立った宗近君は、横から来て甲野さんの手を取るや否や、明け放った仏蘭西窓を抜けて二段の石階を芝生へ下る。
足が柔かい地に着いた時、 「いったいどうしたんだ」と宗近君が聞いた。
芝生は南に走る事十間余にして、高樫の生垣に尽くる。
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夏目漱石『虞美人草』より引用
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泣きぬれた瞳の様な、斯う思って私は椿の葉を見て居る。
頬ずりをして見たい様な、斯う思っていかにも柔かそうな青い苔を見る。
木の葉の茂み、その肌からうれしさがしみ出して私の心の中に通うような苦しいほどの嬉しさに私の目には涙がにじみ出して来る。
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宮本百合子『つぼみ』より引用
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それほど迄に、リフアインされてゐるのだ。
その表情の線を掴まうとしても、掴めないほどの柔かさを具へてゐるのだ。
さはらうとすれば、逃げてゆくやうに思はれる頼りなさのところに評価しても評価しきれない貴重さが存する。
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大手拓次『「香水の表情」に就いて』より引用
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私は桃が敏感な果物だとは、祖父から厭ほどきかされてましたが、こんなに微妙なものだとは思いませんでした。
私が急いで手にとってみると、手触りもきのうより熟れて柔かいんです。
私は皮をむくと、顔も洗わずに夢中でそれを食いました。
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田久保英夫『深い河』より引用
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だが、その部屋の窓から見える隣の黒い板塀に春の陽ざしは柔かく降灑いでゐて、狭い庭の面には青い草が萌えてゐた。
僕は柔かい優しい空気につつまれて、あやされてゐるやうな気持がした。
たつた一人にはなつたが、郷里の家には母や妹が僕のことを思つてゐてくれた。
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原民喜『火の子供』より引用
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秋の取り入れがすみ、そしてまた春の日がやって来た。
橋の欄干を渡らせられ、綾子の柔かい手を感じた頃がめぐって来ていた。
圭太は毎日真っ黒になって野良だった。
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犬田卯『橋の上』より引用
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マカロニが柔かいからではないのよ、ガンスイタンソのせいだそうです。
宮本百合子『獄中への手紙』より引用
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この幅などは、お父様が、今迄見た中での傑作だ。
北宗画と云ふのは、南宗画とはまた違つた、柔かい佳い味のあるものだ。
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菊池寛『真珠夫人』より引用