悦ばしい
全て
形容詞
62 の用例
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この一冊の評論集は、その意味で単なる外国文学の紹介書とは違った内的な持続に貫かれている。
それがこの本の魅力の一つをなしていることは、友人として実に悦ばしい。
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福永武彦『第五随筆集 書物の心』より引用
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どうやらこれでは寺泊へ行けるらしい。
最初の目的が達せられるかと思ふと心中窃に悦ばしさを禁じえなかつた。
あんまり彌彦山が近くなつて居たと思つたのも道理であつた。
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長塚節『佐渡が島』より引用
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ジョージ・ウィラードとくらべものにならないくらいにものわかりのいい、そして純真な人間だと彼は考えた。
そして彼が彼の友におさらばを告げて来たことを悦ばしく思った。
彼の心のうちにわだかまっていた町の人々にたいする耐えがたい気持がふたたび彼の心に帰ってきた。
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アンダスン/山屋三郎訳『ワインズバーグ・オハイオ』より引用
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かくして私達は何等の困難なく「大名物」の数を限りなくふやすことができるのです。
私はこの福音を多くの人々に伝える悦ばしい任務を感じるのです。
在来の「大名物」を崇めて、他の民器を愛さないのは、彼等が美をじかに観ていない証拠なのです。
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柳宗悦『民芸とは何か』より引用
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その上、それから二カ月後に村松剛からかかってきた電話が更に私を悦ばした。
遠藤周作『それ行け狐狸庵』より引用
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この暖かい、匂う、花のようなもの。
なぜそれが、生きていることの悦ばしい確証ではないのだろうか。
僕は首を起した。
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福永武彦『草の花』より引用
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奥深い花苑には微かに風が渡って、楡の実がひとりでに落ちた。
それは目を悦ばし心を愉快にするところで、どうしても人間の世にある庭ではなかった。
陳はその庭を通って小さな亭の傍へ往った。
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田中貢太郎『西湖主』より引用
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私の部屋のスナッグでないことも、また町の周囲のあらあらしさも。
私はただあなたと相見る悦ばしさに溺れさしていただきましょう。
私は先日、夕飯後いつもする妹との散歩の時に、あるいはこのような景色はかえってあなたに珍しく興味をひくかもしれないなどと語り合いました。
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倉田百三『青春の息の痕』より引用
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少年が悦ばしげに馬車へとびこむのを見ると、セエラもそこを去りました。
息苦しいけれど、ほほえみたい気持でした。
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バーネット・フランシス・ホジソン・エリザ『小公女』より引用
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昭和七年に私はこの作を改造社から出したが、今見ると、最も力を尽した作品であるので、そのままにしておくには捨て切れぬ愛着を感じ、全篇を改竄することにした。
幸い書物展望社の好意により、再び纏めることの出来たのを悦ばしく思う。
この書をもって上海の決定版としたい。
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横光利一『上海』より引用
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が、暗い魂は自分でも見つめたくない。
日記を書いて置こうと思い立ったのも、この悦ばしく明るい魂のせいかも知れぬ。
しかし、嘘はつくまい。
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山田風太郎『戦中派虫けら日記』より引用
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どんな悪いことを僕達は犯したでしょう。
僕達は手紙をやりとりすることによってどれほど悦ばしい一日一日を送っているでしょう。
僕は一生懸命に勉強して偉くなろうと和歌子さん故にこそ思います。
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島田清次郎『地上』より引用
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それに返事を書くにしては僕はまだ衰弱しすぎている。
しかし信じてくれたまえ、君が語ってくれたことは皆僕には悦ばしく望ましいことばかりだったことを。
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ロラン・ロマン『ベートーヴェンの生涯』より引用
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すると再び過ぎ去った昔の日の一片が、まるで遥かに見える山脈のように、クヌルプの目の前に浮かび上ってくるのだった。
そして、それは先の思い出ほどに愉しく、悦ばしいものではなかった。
が、その代わり、それは、まるで女達が涙を流しながら、微笑んでいるときのように、はるかにずっと秘密に充ちた、なつかしく深い輝きを帯びたものであった。
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ヘッセ/芳賀檀訳『漂泊の人(クヌルプ)』より引用
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それは私の興味をまったく惹かない。
私は思考の悦ばしい小径に行き当たることを望んでいる。
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ウルフ/西崎憲編訳『ヴァージニア・ウルフ短篇集』より引用
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その時その圖書室の隣りの食器室から皿にスプウンのぶつかる音が聞えてくる。
するとさつき凸凹な石疊が彼に與へたのと同じやうな悦ばしさが再び彼を襲ふ。
それは森のにほひと煙のにほひとの混つた、なんだか熱いやうな感覺である。
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堀辰雄『続プルウスト雑記』より引用
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今日は趣向を変えて、志貴さんとわたしで翡翠ちゃんを悦ばしてあげませんか?
奈須きのこ『歌月十夜 08 タナトスの花』より引用
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僕自身も少年の頃から、この散文詩集に特別の興味を持ち、その全訳を意図しながら今日まで怠け通して来たが、今度、若いフランス文学者で詩人の栗田勇君が、「マルドロールの歌」を初めとして「ポエジイ」、書簡まで収めた「全集」を、三冊本として公刊されることになった。
実に悦ばしいことで、その労苦の並々でなかったことは察するにあまりある。
ロートレアモンの作品は、速度と非論理性と異常幻想と諷刺とに充ち満ちて、容易に日本語に移し植えられない代物だけに、これを読み易い文章にするには、原作者に劣らぬ才能を必要とする。
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福永武彦『第五随筆集 書物の心』より引用
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素戔嗚はまだ驚きが止まなかった。
しかしそのうちにもなんとなく、無事な若者の顔を見るのが、悦ばしいような心もちもした。
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芥川龍之介『杜子春・南京の基督』より引用
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どうせ病人に逢えないのにその家人をして応接に忙殺せしむるのも気の毒だから私は御見舞に出ないけれども先生の御全快を祈って窃に衷心を苦めておりますと見舞状を出しておいた。
その高等官は幸にして全快したけれども私の方の心の礼と外の人の形の礼とをいずれが悦ばしく思ったかしらん。
世間の事は多くそんなものだ。
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村井弦斎『食道楽』より引用