存外
全て
副詞
名詞
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もっとも後になって聞けば、これは「本間さんの西郷隆盛」と云って、友人間には有名な話の一つだそうである。
して見ればこの話もある社会には存外もう知られている事かも知れない。
本間さんはこの話をした時に、「真偽の判断は聞く人の自由です」と云った。
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芥川竜之介『西郷隆盛』より引用
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お供え物である。
否定する気にならないのは、存外これが楽しみだからなのかもしれない。
食いたいときに食って、寝たいときに寝る、という習性は、いかにツキといえども変わらない。
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鈴木鈴『吸血鬼のおしごと 第1巻 The Style of Vampires』より引用
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が、一方から見ればまた、すべてが変わったようで、変わっていない。
娘の今している事と、自分の昔した事とは、存外似よったところがある。
あの太郎と次郎とにしても、やはり今の夫の若かったころと、やる事にたいした変わりはない。
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芥川竜之介『偸盗』より引用
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余左衛門が釣りの恰好で出かけていたのは、獲物の娘を物色するためだった。
夜になっても家に戻らず、外で無駄話に興じている娘は存外に多かった。
そんな娘に目星をつけると、今度は余一郎の出番だった。
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宇江佐真理『髪結い伊三次捕物余話 君を乗せる舟』より引用
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顔色は少し悪いようだったが、いなみの口調は存外にしっかりしている。
帯の下から出ているはしょりに少し皺が寄っているのに目敏くお文は気づいた。
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宇江佐真理『髪結い伊三次捕物余話 さんだらぼっち』より引用
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それは演技の練達といふよりも、その前に、人間としての健全な生活感覚とでもいふか、豊かな人間的魅力といふか、さういふものをもつと身につけなければならないと思ふ。
さういふものが日本の芝居の中では存外お留守になつてゐる所がある。
これが現在の芝居をやる場合に、俳優自身も色々不必要な手さぐりもしなければならないし、ことに演出家が余計な事まで役者に指図をして、そして出来あがつた結果が非常にスマートでなく、ギクシャクしたものになる最大の原因だと思ふ。
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岸田国士『対話』より引用
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おのれの相場観をわきに置いて、素人の指図だけで臨むことを政八は危ぶんだ。
ところが不安を抱えて立ち上がった仕組が、存外にもうまく運んだのだ。
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山本一力『損料屋喜八郎始末控え』より引用
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そうかそうか、悪い時には悪いものだ、グレる時には一から十までグレるものだ、ここでも、みんごと、置いてけぼりにされてしまった。
よく、聞いてみると、お角さんは存外、腹を立ってはいなかったらしい。
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中里介山『大菩薩峠』より引用
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もっとも山には、登って見て初めて好きになるのと、麓から見た方がいいのとある。
私が可愛いと思っている山も、登って見たら存外いやになるかも知れぬ。
登って見て、詰らなかったら、下りて来て麓から見ればよい。
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石川欣一『可愛い山』より引用
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と、通訳してもらった。
上手に言えたかどうだか分らないが、ともかく、存外素直に持って来た。
果せるかな、半熟でちょうどうまい具合に処理してあった。
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北大路魯山人『すき焼きと鴨料理——洋食雑感——』より引用
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苦しまぎれにしぼり出した口実だ。
しかし、これは存外に旗姫の心にぞっとするような矢を射込んだらしい。
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山田風太郎『忍法剣士伝』より引用
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存外に冷やかな響きでしたから、今度はお玉の方が満足しませんでした。
中里介山『大菩薩峠』より引用
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もっともオーギアも、もっと怒るか拗ねるかと思っていたのに、思いがけないほど冷静にひきさがった。
存外、彼は母と共生するために甘えん坊を演じていただけかもしれない。
母親に優しく甘やかされて、心地よかった。
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西東行『鳥は星形の庭におりる』より引用
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武の方の神樣であるから兵主神社といつたのだといふ説が多いのでありますが、それは甚だ其の説が薄弱だといふことは誰でも皆認めて居ります。
兵主神社といふものは日本へ來ては存外武器の神さんになつて居らぬ。
日本に來ては皆食物の神さんになつて居ります。
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内藤湖南『近畿地方に於ける神社』より引用
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男の顎に赤い面皰が浮き出ていた。
最初は四十近くかと思っていたが、存外に若く、まだ二十五だという。
お文よりも年下であった。
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宇江佐真理『髪結い伊三次捕物余話 黒く塗れ』より引用
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兄は依然として下を向き勝であった。
自分は路を迷ったため、存外宿へ帰るのが遅くなりはしまいかと心配した。
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夏目漱石『行人』より引用
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自分では気づいていなくても、「流れ」は自分の行動や、自分の心の状態が引き起こしていることがあるのである。
また人生のこうした「流れ」は存外小さなことから起きていることがある。
例えば、挨拶をさわやかにそして積極的にする、とか、人と会話をする時は笑顔を見せる、とか、思いやりをもって人に言葉をかける、とか、作業が続いて膠着状態に陥ったら自発的に給湯室や洗面所などでストレッチや深呼吸などをして自分をリラックスさせる、といったことである。
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こんなことで夜の十一時頃までにかなりの商いしてのけるとは存外なものだ。
柴田流星『残されたる江戸』より引用
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女はわっちに掴まってようやく立ち上がると礼を言ったよ。
怪我をしなかったかと心配したが、存外に達者な足取りで行ってしまった。
着物は安物だったが、何しろいい女だったねえ。
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宇江佐真理『髪結い伊三次捕物余話 さらば深川』より引用
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小松で使ったのが十五円ばかり、それに自動車の払い。
すると存外あるはずなのだが、ほんとうにそれぐらいあったかしら。
懐へ手を入れて紙入れの厚みを一寸試してみたが、気になるので一遍改めてやろうと便所の中へ這入った。
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谷崎潤一郎『潤一郎犯罪小説集』より引用