夕飯を済ます
20 の用例
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「わたしは留守番だから、あしたの晩は遊びにおいでよ」と前の日にKのおじさんが云った。
わたしはその約束を守って、夕飯を済ますとすぐにKのおじさんをたずねた。
Kの家はわたしの家から直径にして四町ほどしか距れていなかったが、場所は番町で、その頃には江戸時代の形見という武家屋敷の古い建物がまだ取払われずに残っていて、晴れた日にも何だか陰ったような薄暗い町の影を作っていた。
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岡本綺堂『半七捕物帳』より引用
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まるで裸の王様だ。
カップ麺で夕飯を済ましているところに、その君島から電話がかかってきた。
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月村奎『レジーデージー』より引用
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中洲を出た時には、外はまだ明るく、町には豆腐屋の喇叭、油屋の声、点燈夫の姿が忙しそうに見えたが、俥が永代橋を渡るころには、もう両岸の電気燈も鮮やかに輝いて、船にもチラチラ火が見えたのである。
清住町へ着いたのはちょうど五時で、家の者はいずれも夕飯を済まして茶を飲んでいるところであった。
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小栗風葉『深川女房』より引用
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わたしと別れてから、久子さんは教会へ行ったのだそうです。
そして戻ってきて、そそくさと夕飯を済まして、わたしを誘いに来たというのです。
その前に、教会で神父様と話し合い、今夜わたしを加えて三人で、聖堂でお祈りを捧げようと決めたのだといいます。
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小川国夫『逸民』より引用
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大河の言うとおりだった。
どんなに精神的に深手を負おうと、七時すぎには夕飯を済まして家を出なければいけない大黒柱が待っているのだ。
小銭入れをかき回しながらようよう竜児も立ち上がり、伝票を掴んだ大河にコーヒー代を渡す。
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竹宮ゆゆこ『とらドラ! 第08巻』より引用
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そのうち段々くらくなつて来て夕飯になつた。
自分は夕飯を済ましてから、二たびこの蟻の闘を見に来た。
すると殆ど人目では見えなくなつた黄昏の中に、二つの蟻が先程とさう違はない場処に、先程とさう違はない状態に、闘をつづけてゐた。
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斎藤茂吉『三年』より引用
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自分は半ば春を迎えながら半ば春を呪う気になっていた。
下宿へ帰って夕飯を済ますと、火鉢の前へ坐って煙草を吹かしながらぼんやり自分の未来を想像したりした。
その未来を織る糸のうちには、自分に媚びる花やかな色が、新しく活けた佐倉炭の炎とともにちらちらと燃え上がるのが常であったけれども、時には一面に変色してどこまで行っても灰のように光沢を失っていた。
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夏目漱石『行人』より引用
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自分は半ば春を迎えながら半ば春を呪う気になっていた。
下宿へ帰って夕飯を済ますと、火鉢の前へ坐って煙草を吹かしながら茫然自分の未来を想像したりした。
その未来を織る糸のうちには、自分に媚びる花やかな色が、新しく活けた佐倉炭の焔と共にちらちらと燃え上るのが常であったけれども、時には一面に変色してどこまで行っても灰のように光沢を失っていた。
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夏目漱石『行人』より引用
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そういう風に、至極善良な親しみを彼は私共に齎しました。
風呂にはいり夕飯を済ましてから、その晩私と妻とは彼を相手に、遅くまで話し合ったり笑ったりして、初めて彼の事情をよく知りました。
彼は前年の春中学校を卒業して、将来の方針を立てるのに愚図ついてるうち、上の学校への入学期も過してしまった。
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豊島与志雄『香奠』より引用
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半蔵は福島出張中のことを父に告げるため、馬籠本陣の裏二階にある梯子段を上った。
彼も妻子のところへ帰って来て、母屋の囲炉裏ばたの方で家のものと一緒に夕飯を済まし、食後に父をその隠居所に見に行った。
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島崎藤村『夜明け前』より引用
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左に少し行くと仙人ノ池が叢に埋もれた一面の古鏡のように光っている、野営には誂向きの場所だ。
其畔りに天幕を張り小屋を掛けて、火にあたりながら夕飯を済ますと、七時頃に大雨が降って来た。
連日の疲れで今夜はぐっすりとよく寝た。
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木暮理太郎『黒部川を遡る 』より引用
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その時の気分がなんともよかったのだ。
太郎は夕飯を済ますと、「床屋へ行ってくらあ」と母に言った。
試合の後の解放感があった。
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曾野綾子『太郎物語』より引用
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その日曜の午後を健三は独り静かに暮らした。
細君の帰って来たのは、彼が夕飯を済ましてまた書斎へ引き取った後なので、もう灯が点いてから一、二時間経っていた。
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夏目漱石『道草』より引用
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土地の人びとは、そのことを「寒の夜晴れ」と呼んでいた。
八時に遅がけの夕飯を済ました私は、もう女学校も休暇に入ったので、何処か南の方へ旅行に出掛ける仕度をしていた時だった。
三四郎が級主任をしている補習科A組の美木という生徒が、不意に転げ込んで来て、三四郎の留守宅に持上った兇事の報せを齎らして来た。
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大阪圭吉『寒の夜晴れ』より引用
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この信念を抱いて世に処する道也は細君の御機嫌ばかり取ってはおれぬ。
壁に掛けてあった小袖を眺めていた道也はしばらくして、夕飯を済ましながら、 「どこぞへ行ったのかい」と聞く。
「ええ」と細君は二字の返事を与えた。
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夏目漱石『野分』より引用
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彼は周囲の友達のやうに華かな世界がなかつた。
その晩も下宿で淋しい木屑を喫むやうな夕飯を済ますと机の上の雑誌を取つて覗いてゐたが、なんだかぢつとしてゐられないので活動でも見て帰りに蕎麦でも喫はうと思つて其所の活動写真館へやつて来た。
写真は新派の車に乗つてゐる令嬢を悪漢が来て掠奪すると言ふやうな面白くもないものであつた。
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田中貢太郎『牡蠣船』より引用
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と母に言われて、お菊は不承々々に煎餅を分けて貰った。
その晩は早く夕飯を済ました。
薮蚊の群が侘しい音をさせて襲って来る頃で、縁側には蚊遣を燻らせた。
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島崎藤村『芽生』より引用
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先刻の女の事を聞いたら、何でも宅で知ってる人なんでしょうと云っただけで、ちっとも要領を得ない。
昨夕飯を済まして煙草を呑んでいると急に広間の方で、オルガンを弾く音がしたが、あの女がやったんじゃないかと聞くと、いいえ昨夕のは宅の下女ですと云う。
この原のなかに、それほどハイカラな下女がいようとは思いがけなかった。
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夏目漱石『満韓ところどころ』より引用
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その静けさと重く淀んだ空気が東野には疎ましい。
出来上がった肉野菜炒めと前日からジャーに入れっぱなしの飯で夕飯を済ますと、東野はしばらくの間、腕組みをしてベッドに寄りかかっていた。
やがて決心して跳ね起き、山岡将雄の電話番号を押した。
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篠田節子『ハルモニア』より引用
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楽しい笑声の中に、私は夕飯を済ました。
「お前も御馳走に成れ」という亭主の蔭で、細君も飯を始めた。
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島崎藤村『千曲川のスケッチ』より引用