土塀
全て
名詞
1,324 の用例
(0.01 秒)
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時間が逆転したような不安が芽生えた。
あの白い土塀の向こうには二十年前の時代が広がっているのではないか?
私の学習机がないだけで、壁の色から天井の染みまで一緒である。
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高橋克彦『幻少女』より引用
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わからないが、興味はある。
ふと顔を上げると、土塀の前で鹿が二匹、じっとこちらを見つめていた。
未だに、こうしてどこにでも鹿がいることが不思議に感じられる。
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万城目学『鹿男あをによし』より引用
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したがって何らの奇もなかった。
二人は土塀の影から再び現われた安井を待ち合わして、町の方へ歩いた。
歩く時、男同志は肩を並べた。
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夏目漱石『門』より引用
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ボクさんは、あまり悲しいので、二階の穴から飛び出して、ほんとうに星の世界へゆくつもりだったのですって。
お別れに、楽しかったこの土塀のまわりをひと目見に来たのだそうです。
久世氏は、利江子夫人と和解なすったそうです。
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久生十蘭『キャラコさん』より引用
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何げなく見送っていて、そして気がついた。
さっきまで土塀に映っていた二つの影法師は今は一つになっている筈である。
なのに土塀には何の影法師もなかった。
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佐藤愛子『冥途のお客』より引用
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といっただけで、おげ丸は屋敷を囲む土塀の内側に沿って歩いている。
べつにそのことについて思案している表情ではない。
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山田風太郎『忍法封印いま破る』より引用
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一箇月ばかりして、彼はまた演説の腹案をこしらえる必要が起ったので、平生のように散歩しながら思想を纏めるつもりで戸外へ出た。
その時はもう春も深くなって、土塀の上に見える邸内の桜は咲きかけていた。
芳郎は坂路を登りながら、二十三年に発布になることになっている憲法のことを考えていた。
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田中貢太郎『赤い花』より引用
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青白い閃光の中に、鰺兵衛は路上の人影を見た。
土塀に沿って、一人の男が、裸の女を背負ってそこに立っているのを。
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山田風太郎『忍法陽炎抄』より引用
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集落の招待所に入る。
広い前庭を持ち、それがぐるりと土塁のような高い土塀に囲まれている。
城塞の跡とでも言いたいような一画である。
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井上靖『私の西域紀行(下)』より引用
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あの土塀沿いに路がついて、うえの山へつづいてるじゃありませんか。
横溝正史『悪魔の降誕祭 他二篇』より引用
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厄介なことになりそうだった。
そう思ったとき、失礼しましたと言ってようやく女が土塀の陰から出て来た。
齢は二十半ばだろうか。
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藤沢周平『麦屋町昼下がり』より引用
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ともあれ、そんなことを探索しているひまも、思案しているひまもなかった。
城太郎は走って、さっきの土塀のかげにつくと、壁の崩れから中に入った。
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山田風太郎『忍法帖3 伊賀忍法帖』より引用
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枕の中には何もはいっていない。
少年のころ、枕の中ではいつも土塀の修繕がつづいていたのを思いだした。
今日は土の中にコンクリートの塀を埋めたんだ。
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赤瀬川原平『少年とオブジェ』より引用
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この五時間ほどの時間が、自分の半生よりも、もっともっと長いような気がしましたわ。
ようやく月が出かかったので、土塀のところへ出かけてゆきました。
月の光の中で、桔梗の花が星のようにゆれています。
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久生十蘭『キャラコさん』より引用
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四本の白刃がからみあってとび離れ、ふたたびからみあった。
もう一度とび離れたとき、頭と思われる敵は土塀の上に位置をかえていた。
そのとき、たすくはようやく、その敵がこの家の台所に接した部屋で、夕飯を供されたとき、同席した三人の客のうち主だった一人であったことを思い出した。
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光瀬龍『寛永無明剣』より引用
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やがて駕籠の灯がとまった荒れ屋敷の門を見届け、そこの崩れた土塀の横に身をひそめていた。
そして阿能が中へ入ったのを見すましてから、彼も、土塀をとび越えた。
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吉川英治『大岡越前』より引用
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小銃の声を聞いて農夫の親子が駆けつけた。
その農夫たちの家もやはり土塀の中にあったが、彼らも何人の姿も見なかった。
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ルブラン・モーリス『奇巌城』より引用
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またそのお臀の傷などもよく見ましたが実に酷たらしいものであります。
獄屋も余程楽な獄屋といったところが土塀に板の間の外には何にもない。
かの寒い国でどこからも日の射さないような、昼でもほとんど真っ闇黒というような中に入れられて居るので衛生も糸瓜もありゃあしない。
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河口慧海『チベット旅行記』より引用
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車が急ブレーキを踏む音とともに、男の声も聞こえる。
崩れかかった古い土塀を回り込んだところに真紀ちゃんが倒れていた。
三輪トラックに撥ねられたらしい。
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田中哲弥『さらば愛しき大久保町』より引用
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ソロは足音をしのばせてその人たちの後を通って、寺院の角をまわった。
そして二分後にはテントの後の土塀のてっぺん目がけてとびついていた。
塀の上から用心ぶかくのぞいてみると、距離の目測を二ヤードほどまちがえていたのが分った。
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ナポレオン・ソロ・シリーズ『07 放射能キャラバン追跡』より引用