呻く
全て
動詞
1,360 の用例
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まして神経質な長男の透の寝言は、少年も泊るたびに聞かされてゐる。
だがそのとき聞いた呻き声は、それとは全然性質のちがつたものだつた。
さう直感された。
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神西清『地獄』より引用
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かすかに呻き声をあげたばかりで、そのお侍さんは倒れてしまいました。
国枝史郎『怪しの者』より引用
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あの穴吊りを受けている百姓たちの呻き声を聞くに耐えなかったからか。
遠藤周作『沈黙』より引用
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三本脚の松ツァンは、ケージをおりて、坑内へ這入って来た。
彼は巨大な鉱石に耳をつけて息子の呻きがしやしないか神経を集中した。
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黒島伝治『土鼠と落盤』より引用
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とおげんは言って見たが、ふと気がつくと、熊吉はまだ起きて自分の側に坐っていた。
彼女はおよそ何時間ぐらいその床の上に呻き続けたかもよく覚えなかった。
唯、しょんぼりと電燈のかげに坐っているような弟の顔が彼女の眼に映った。
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島崎藤村『ある女の生涯』より引用
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二人と視線を合わせられずに、下を向いたまま啓二は呻くように言った。
岩本隆雄『ミドリノツキ〔上〕』より引用
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射し込む月光を背に受けて、姫の姿は神々しいばかりに輝いた。
次郎はそのまま黙ってしまい長い沈黙のあとで呻くように声を発した。
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福永武彦『風のかたみ』より引用
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崖の下では、坊之宮の女子供や老人が、芋虫のように背中を丸めて、岩の窪みに固まっている。
あちこちで、崖から滑り落ちて怪我をした者たちが呻き声をあげている。
その中には、博文の姿があり、登紀子が服の裾で流れる血を拭いていた。
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板東眞砂子『狗神』より引用
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あるいはどういう手づるで調べたのかわからないが、彼女はまた慶応病院にやってきたのである。
それは私が手術をうけた直後でウンウン、ベッドで呻いている時だった。
鼻孔には酸素吸入のゴム管が入れられ、足には輸血の針がさしこまれ、附添さんがつききりで、その附添さんが一寸、昼食をとりに病室を離れた間である。
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遠藤周作『ぐうたら人間学』より引用
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併し斑猫先生はそんなにいい気にをさまつてゐられなかつた。
今度はかなり近い所に、たしかに人の呻くやうな低い声が聞えてきたのだ。
低く幽かであるけれど、これはかなり長く続いた。
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坂口安吾『群集の人』より引用
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内ばかりじゃない、今でも盆にはそうだろうが、よその爺様婆様、切籠持参は皆そうするんだっけ。
その年はついにない、どうしたのか急病で、仁右衛門が呻いていました。
さあ、切籠が迷った、白張でうろうろする。
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泉鏡花『縁結び』より引用
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私は手近な男の頸動脈をアストラ拳銃で思いきり引っぱたいて昏倒させ、次の男の胃に銃口をくいこませておき膝で睾丸を蹴りあげた。
呻きを漏らして蹲るその男を放っておき、私は残りの一人に銃を向けた。
左足で玄関のドアを蹴り閉めながら、枕を持った左手で電灯のスイッチを押す。
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大藪春彦『名のない男』より引用
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老人は三人を叱って諍闘をとり鎮めようとしたが鎮まらなかった。
黒い渦巻を作って縺れあった三人の口からは野獣のような呻きが聞えた。
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田中貢太郎『春心』より引用
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おれは恐ろしい利己心に駆られていたが、そのあいだにもおれの胸は悔恨にむしばまれていたのだ。
クレルヴァルの呻き声がおれの耳には音楽に聞えたとでも思うのかね。
おれの心は、愛や同情に感じやすいようにつくられ、不幸のために悪徳と憎悪のほうへねじまげられた時には、激しい変化に堪えかねて、あんたなどの想像もつかぬほど苦しんだよ。
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宍戸儀一『フランケンシュタイン』より引用
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パンティに触れた。
キスをしながらも、奥さんは口の端から鼻にかかった呻き声を洩らした。
腰を震わせ、下腹部を上下に大きく波打たせた。
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神崎京介『禁忌』より引用
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山野辺哲は、ぺたりとカウンターの椅子に腰を下ろした。
入口付近の床の上で横になっていた女も、かすかな呻き声をあげた。
ママが、あわてて、コップを持って女に駈け寄っていく。
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梶尾真治『精霊探偵』より引用
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多分乳房を触るだけで逃げてくるにちがいない。
女は目を瞑って顔を背けて呻くだろうか、恐怖で目を見ひらくだろうか。
地面に投げ出されたハイヒール、泥だらけの下着、女は抵抗をあきらめて力を抜く。
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柳美里『女学生の友』より引用
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船倉の畳敷には五百を越える傷病兵が犇き合っていた。
ある者は目を閉じたまま痛みに耐え、ある者は無意識のうちに呻いている。
小武も例外ではない。
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渡辺淳一『光と影』より引用
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何者かに操られ、清海や愛香を襲ってきた総勢二十六名の生徒たちは、すべて床に転がっていた。
気絶している者もいるが、大半は腕や足、腹などを押さえて呻いている。
生徒たちが手にしていた刀はすべて真剣だったが、それらは今、練武場の片隅に無造作に積みあげられていた。
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舞阪洸『サムライガード』より引用
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が、恐ろしい中にも、路銀だけは、という考えが閃いた。
彼は倒れて呻いている男の懐に手を入れたが、財布の手応えは無かった。
財布だけではない、何か自分の手にも手応えが無かった。
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松本清張『無宿人別帳』より引用