去つて行つ
17 の例文
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止んでみると、まるで嘘のやうである。去つて行つたものが嘘か、あとに残されたがらん洞が嘘なのか。
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喋り足りると、その男は勝誇つたやうに自転車に乗つて去つて行つた。
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彼は自分のこの缺點を認めた。そしてその頃から彼は漸く彼の意識的藝術活動そのものをも棄て去つて行つたやうに見える。それは彼の後期の藝術論である「文藝的な餘りに文藝的な」の中に「あらゆる藝術的活動を意識の閾の中に置いたのは十年前の僕である」と斷言してゐるのに徴しても明らかである。
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彼女の思念をこの時何物かが音もなく溶け去つて行つた。彼女は豊かに胸をはつて、満足した母親の眼を天の幼児に投げた。
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三男も事業に失敗した揚句、大阪へ行つたとか云ふ事だつた。汽車は毎日停車場へ来ては、又停車場を去つて行つた。停車場には若い駅長が一人、大きい机に向つてゐた。
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穴は体長八分ぐらゐの彼等の体がすつぽりとかくれてしまふくらゐの深さはあるらしい。さうやつてかなり長い時間かかつて穴の清掃を終へたと思ふと、ジガ蜂は戸外へ飛び去つて行つた。そしてまた帰つて来た時に、私は彼が肢の間に何かをかかへこんでゐるのを見た。
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あれらがみんな押し込められるとすれば、穴はかなり深く、恐らくは斜にうがたれ、奥は房のやうになつてゐるのだらう。ジガ蜂はまた飛び去つて行つたが、それは夏の日ももう間もなく暮れようとする頃だつた。そして彼はその日はそれきり帰つて来なかつた。
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軽くなつたらしい尻を上げ下げする動作に重大な務めを終へたあとの安堵を見せながら、また穴のまはりをくるくると廻つた。それから飛び去つて行つた。また帰つて来た時に今度も彼は何かをくはへ込んでゐる。
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大寺の香のけむりは細くとも 天に登りてあま雲となるあま雲となる こんな「神楽歌」さへ、三千代には細々と何かが通つて来るやうな思ひがしてならなかつた。いつか隠し芸の順番は向うの方へ遠去つて行つた。三千代はホツとして、何の気もなくちらと窓から外を見た。
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多田君はもう胸がどきどきして、どういふ顔つきで彼女とすれちがつたらいいのか判らなかつた。やがて近づき、すぐ側まで来ると、彼女はにつこり微笑しようと、唇をほころばせかけたが、急にそれを止めて、そして急ぎ足で去つて行つた。かういふ場合になると、多田君は狼狽してしまふ癖があつた。
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富岡は、小さい豆粒ほどのさいころをやけになつて炬燵の上で振つてゐるのだ。貨物列車は遠く去つて行つた。地響きも消えた。
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直吉は躑踞んで、荒い風の吹く甲板に雀を放してやつた。雀は突差によろめき、飛翔の呼吸を計つてゐたが、一二度羽根を風に向けて拡げ、すぐその姿勢のまゝさつとマストの方へ飛び去つて行つた。何処から迷ひこんだ雀かは判らなかつたが、かうした小動物の不思議な生命を、直吉は愛らしいものに思つた。
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また一人の異國の修道士は僧衣を引き摺りながら、足音もなく這入つて來た。彼は聖像の前に嚴かに十字を切ると、金色の燭臺を降して、それを兩手に支へたまま、人無きが如くに私達の眼の前を去つて行つた。
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すると井伏君は路の上で脚をもぢもぢさせながら言つた。「君は、将棋が差せないから、駄目だね、K君の家はS医院の所を入るんだね、ぢや、失敬、将棋が差したいんでね」 井伏君は何か私に済まないやうな、と言つて隠し切れないほど嬉しいやうな微笑を浮かべると、くるりと後を向いて、足早に歩き去つて行つた。若しもまたK君も留守であつたら井伏君は大方この辺の将棋の出来る友達を片端から訪ねかねまじい勢であつた。
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しかし彼は一時間とはその席にゐたことがなかつた。黒の背広に縞ズボンといふ職業的服装で彼は、柳澤の運転するぼろフォードに乗つて黒い風のごとくに現れ、また黒い風のごとくに去つて行つた。児玉が姿をあらはすと、中年の男組はにはかに色めき立つて、彼の周囲へ押し寄せた。
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ごみごみした、玩具箱をひつくり返したやうな、桟橋が、遠くなるまで、切れたテープを、富岡は頭の上で振つてゐた。比嘉は桟橋のはづれに立つて、白いハンカチを振つてゐたが、一寸、小腰をかゞめて、大股に桟橋を去つて行つた。鞄を振るやうにして歩いて行く、医者の後姿が富岡には頼もしく見えた。
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