冴え返り
全て
動詞
10 の用例
(0.00 秒)
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恋人よ、君と二人きりで海岸をそぞろ歩きした時のことを、私は思い出す。
空は蒼く冴え返り、太陽の光は一面の白布となって大地に展べていた。
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豊島与志雄『情意の干満』より引用
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寝苦しい晩だった。
頭は異様に冴え返り、昼間の昂奮は朝まで醒めそうになかった。
人間にめぐり逢えた嬉しさもあったが、それより、俺はあの老人の言葉が気になっていたのだ。
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半村良『およね平吉時穴道行』より引用
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どこもここも削ぎ取ったようになって、この身体に血が通っているのか、蝋石色に冴え返り、手足は糸のように痩せているのに、眼ばかりは火がついたように逞ましく光っている。
引き結んだ唇は朱の刺青をしたかと思われるほど赤く生々しい。
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久生十蘭『平賀源内捕物帳』より引用
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雨が止み雷鳴が消え風が凪いで、紺碧に澄みきった大空と雨水に溺れた大地とが、焼くがような太陽の直射に照らし出される。
空は光を含んで益々冴え返り、地面は浴び飲んだ水が沸き立って、熱い吐息に喘いでくる。
そして崩れ落ちる暗雲は、くず折れくず折れして益々低く、地平線の彼方に没してゆく。
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豊島与志雄『真夏の幻影』より引用
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一夜といっても、それは二三時間にすぎなかったろう。
頭のしんが冴え返りながら、意識の表面だけでうとうとしてると、遠くに、牛乳車の音や汽笛の響が聞えてきた。
彼は驚いて眼を開いた。
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豊島与志雄『反抗』より引用
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しかしそれは單なる理解にとどまつた。
一行々々が冴え返り、ひきつけられたり突きはなされたりするうちに、結局大きな喜びをともなつて心底に消しがたいあとをとどめるといふものではなかつた。
なんといふ乾いたこれらの文字どもであることだらう。
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島木健作『第一義の道』より引用
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登るにつれて琴の音が大きくなって来た。
嫋々としてしかも冴え返り、魂を天外に誘う不思議の音色だった。
弾き手も只者ではないが、楽器も並のものとは思われない。
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隆慶一郎『一夢庵風流記』より引用
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さて、日比谷公園は、前回に引き続いてまだ夜である。
池の岸のアーク灯が煌々と冴え返り、青銅の鶴は夜目にも白い幽玄な水の穂をキラキラと夜空に噴き上げる。
それを見おろす岸の高みに、夕陽新聞記者古市加十と安南国諜報部長宋秀陳が佇んでいることも前回と同じくである。
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久生十蘭『魔都』より引用
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これがしきたりで、今もってやる人があります。
当今また冴え返り、浅草の観音堂または川崎の大師、鶴見の総持寺なんというところで盛んに豆まきがありまして、角力が豆まきをする、また役者がまくというので、女の子なぞが拾いに出かけます。
わけて成田不動様では豆まきをするために臨時列車が出たり、往復割引の切符を売り出したりして、たいそう盛んなものでございます。
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今村信雄編『古典落語(中)』より引用
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フェアポート・コンベンションも、まさにこのような心境に居るのでしょう。
ヴォーカルはいよいよ冴え返り、古めかしい手製のメロディーを、一層古めかしく、尚且つ想い切々と唄います。
とりわけ裏面で、ジョン・リーがお告げの夢を見る前に、たった一曲だけ、フェアポートが語り手の立場からの四行を唄う下りは見事です。
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松平維秋『松平維秋の仕事』より引用