似合しい
全て
形容詞
8 の用例
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市蔵はしばらくして自分はなぜこう人に嫌われるんだろうと突然意外な述懐をした。
僕はその時ならないのと平生の市蔵に似合しからないのとで驚ろかされた。
なぜそんな愚痴を零すのかと窘なめるような調子で反問を加えた。
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夏目漱石『彼岸過迄』より引用
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こういう工場内の悪質な分子を、労働者出の管理者及び彼を支持する労働者群がどんな困難を経て、克服して行くかといういきさつは、キルションの有名な戯曲「レールは鳴る」にもよく表現されている。
インガ・リーゼルが、知識階級から出た、教育と経験のある婦人党員であり、工場が、婦人の活動に似合しい裁縫工場である故もあって、彼女はそういう困難は経験しないですんでいるが、彼女のところには別な種類での困難があった。
それはインガが女で、工場管理者の地位についているという事実である。
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宮本百合子『「インガ」』より引用
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佐治は、座敷の入口に立つてゐる私の姿を認めると、快活に呼びかけた。
私は彼の口から、彼の幸福さうな赤い顔に似合しいやうな浮々した言葉が、無造作に浴びせかけられることを思ふと堪らない気がされた。
昨夜の放埒な記憶に触れずにすむためには自分の方から、何か先に口を切らねばいけないと思つて、暫くの間云ふ可き言葉を頭の中で整理してゐた。
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中戸川吉二『イボタの虫』より引用
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たとえば、彼の急死は、腹上死だという噂がある。
そういう結末を、彼の短かい人生につけることが最も似合しい、とおもわせるものが彼にあったらしい。
彼の旧友のT氏は、酔うとそのことを私に質問した。
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吉行淳之介『私の東京物語』より引用
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この間も、鉄斎の大津絵と梅原さんのその自由模写とを並べて見ていたが、どちらの色彩も強く鋭敏で、逸格で、複雑で、全体として聞えて来る和音のどちらが近代的であるかという様な事は、なかなか言い難いと思った。
前に言った八十七歳の山水図にしても、大丈夫の襟懐などという古風な観念には凡そ似合しからぬ鋭敏複雑な近代水彩画の touch が現れている。
溌墨法とか賦彩法とかいうより、確かに touch と言った方がいいのである。
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小林秀雄『モオツァルト・無常という事』より引用
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自分は親戚の片割として、お貞さんの結婚式に列席するよう、父母から命ぜられていた。
その日はちょうど雨がしょぼしょぼ降って、婚礼には似合しからぬ佗びしい天気であった。
いつもより早く起きて番町へ行って見ると、お貞さんの衣裳が八畳の間に取り散らしてあった。
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夏目漱石『行人』より引用
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千鶴子は矢代と幸子との間にあった昨夜の不明瞭な喰い違いの様子も敏感に察したらしく、場所には似合しからぬ唐突な笑顔だった。
横光利一『旅愁』より引用
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男には似合しからねど、すべて優形にのどやかなる人なり、かねて高名なる作家ともおぼえず心安げにおさなびたり。
長谷川時雨『樋口一葉』より引用