中に漂う
67 の用例
(0.00 秒)
-
ほとんど目を据えていると言っても宜い。
熱病めいた異常なものまでが、その眼の光の中に漂っているようである。
少々気味が悪くなって来た。
…
中島敦『環礁』より引用
-
彼はコゼットがどうなったか少しも知らなかった。
シャンヴルリー街の事件はただ一片の雲のように記憶の中に漂っていた。
エポニーヌやガヴローシュやマブーフやテナルディエ一家の者や、防寨の硝煙にものすごく包まれてる友人らなどは、皆ほとんど見分けのつかないほどの影となって彼の脳裏に浮かんでいた。
…
ユゴー・ヴィクトル『レ・ミゼラブル』より引用
-
なぜなら自分自身、生きるということが、どういうことかわからず、目的もなくただ生きていたから、他の人々もまた無目的に生きているに過ぎないものに思えた。
安静時間にじっと目をあけて寝ていると、光の中に漂う塵埃が目につく。
ホコリは金色に光ったり、赤かったり、砂粒よりもなお細かい白いものもあった。
…
三浦綾子『塩狩峠 道ありき』より引用
-
だいたいにおいて、このような雰囲気が、家の中に漂っていたのだった。
特にひもじい思いもせずに、戦時中も暮らしていたモモヨ一家であったが、「勝ってたと信じてたのに」実は日本は戦争に負けていた。
…
群ようこ『モモヨ、まだ九十歳』より引用
-
司祭が星の運行をみて推定したのだが、真夜中を過ぎたころであったろう、彼はその場から見渡せる海上に隈なく視線を配った。
月明りの中に漂う雲はなく、雲と見えるのはみなトルコ人の船である。
司祭はあわてて鐘に駆けつけ激しく続けざまに打った。
…
セルバンテス/荻内勝之訳『ペルシーレス(下)』より引用
-
学校から帰って来ると、こうして家の中に閉じこもり、味沢の帰宅をじっと待っている。
その間少女は自分一人の想念の世界の中に漂っているのだろう。
たちこめる濃い霧をかき分けて、失われた記憶の道しるべを必死に探しているのであろうか。
…
森村誠一『野性の証明』より引用
-
今夜は十月初頭にしては少々冷える。
大気が冷たく乾いていると、空気中に漂う様々な匂いがはっきりわかる。
揚げ物の匂い、排気ガスの匂い、金木犀と冷えた草の匂い。
…
桐野夏生『OUT(下)』より引用
-
肉体の一部であるところの瞼が開いて、ものの二、三分も経てば、有無を言わせず現実世界は自分の身に襲いかかってくる。
たとえ、いつまでも幸福な夢の中に漂っていたいと望んでも。
ロアデルはまず、そこが自分の住むアパートでなかったことにがっかりした。
…
今野緒雪『スリピッシュ! 01 ―東方牢城の主―』より引用
-
ふたりとも居間にいた。
中に漂いこんでいくと、オリヴァーが心配そうにのそのそついてきた。
…
D・W・ジョーンズ『わたしが幽霊だった時』より引用
-
外見は冷静であったがこの時代には、一種の革命的な戦慄が漠然と行き渡っていた。
一七八九年および一七九二年の深淵から起こった息吹は、空気の中に漂っていた。
こういう言葉を用いるのが許されるならば、青年は声変わりの時期にあったのである。
…
ユゴー・ヴィクトル『レ・ミゼラブル』より引用
-
細胞質基質は、細胞質のうち細胞小器官と封入体以外の部分である。
細胞質基質は半透明な液体であり、様々な細胞質の要素がその中に漂っている。
…
-
すっきりしている。
まるで、頭の中に漂っていた濃い霧が、清々しい風で一掃されたかのようだ。
これは紫のお陰だろうか。
…
片山憲太郎『紅 第02巻 ~ギロチン~』より引用
-
彼が当然のこととして予想していたよりも早く、アルヴィンの播いた種子は、花開き始めていたのである。
二人がシャルミレインに着いた時、山々はまだ影の中に漂っていた。
彼らのいる高度から見ると、砦の巨大なすり鉢はひどく小さく見えた。
…
クラーク『都市と星』より引用
-
青い帷は惰そうに垂れて、土室の中に漂うた酒と煙草の匂を吸うていた。
「山西さんどうしたの、今晩はいやにすましてるじゃないの」と唇の厚い給仕女が前の方から云った。
…
田中貢太郎『水魔』より引用
-
山の彫刻に曠世の技倆を揮った大自然の手は、此処にも企及す可らざる布置按配の巧妙を示した一幅の大画を拡げて、渓間に漲充された軟熟な翠色の空気は、画面に一段の幽邃と落付きとを加えている。
私達の眼は華やかにも沈痛を極めた色の中に漂うている許りである。
私は南アルプスの大井川に匹敵する峡谷を北アルプスに覓めて、この黒部川を得た、そして満足した。
…
木暮理太郎『黒部川奥の山旅』より引用
-
光と痛みがあまりに強烈すぎて、感覚が麻痺したのだろうか。
五感を失って、黄金色の やみ ただよ 闇の中に漂っているような気分だった。
痛みも苦しみもない。
…
冴木忍『カイルロッドの苦難 1 旅立ちは突然に』より引用
-
登校してみると、その噂は悪臭のように学校中に漂い、遍く広がっていた。
彼女が大怪我をしたという。
…
有栖川有栖『ダリの繭』より引用
-
水越の家でも、時々すき焼きやしゃぶしゃぶの鍋を用意することがあるが、そうした時もあまり箸をつけない。
姑の唾で濡れた箸が、鍋の湯の中に漂っているさまを想像してしまうからだ。
ところがどうしたことだろう。
…
林真理子『不機嫌な果実』より引用
-
けれど、わたしはホラーは大好きだし、慣れている。
だから櫂くんの亡霊がまだ部屋の中に漂っているのなら、出てきてほしいと思った。
瞳ちゃんとイブに映画を見に行く約束をしていたのに、何故イブの前に自殺したのか理由を話してほしいって。
…
野村美月『文学少女シリーズ14 “文学少女”見習いの、卒業。』より引用
-
それどころか、コナンのほうに頭をむけようともしないのだ。
しかし、その部屋の中に漂っている青味を帯びた霧が、まるで生命あるもののように動いている。
…
R・E・ハワード『大帝王コナン』より引用