なければ済まない
31 の例文
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田中幸雄は、一応、そう疑ってみた。彼の性分として、疑ったことは必ず突き止めてみなければ済まなかった。永年の職業的な影響かもしれない。
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その年の十二月に、彼は決心して女のところへ移った。何かしらそういうふうにしなければ済まないような気持だった。病院では医師も看護婦も、一種の嘲りを隠した眼で彼を見た。
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やがて三階から兄が下りて来た。自分はその顔をちらりと見た時、これはどうしても行かなければ済まないなとすぐ読んだ。
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余は口のうちで、第二の葬式ということばをしきりにくりかえした。人の一度は必ずやってもらう葬式を、余だけはどうしても二へん執行しなければ済まないと思ったからである。舁かれてへやを出るときは平らであったが、階子段を降りるきわには、台が傾いて、急に輿から落ちそうになった。
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甲野さんにははたして連があった。小野さんはもう少し進んで見なければ済まないようになる。「そうかい、奇麗だったろう」とまず繋ぎに出して置いて、そのうちに次の問を考える事にする。
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考えてみれば、今の身があるのも、猿殿のお庇だ。ぜひ一度は巡り会って、真人間になった自分を見せて上げなければ済まない。それにしても、猿殿はいったい、どうして、あんな予言をしたものか。
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けれども自分はそれを隠す気もなかった。隠さなければ済まない人は、宅に一人もないように思われた。茶の間には嫂が雑誌の口絵を見ていた。
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だから僕は母をできるだけ大事にしなければ済まない。が、実際は同じ源因がかえって僕を我儘にしている。
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己はその娘と、妻となるべき予定の相手と、その両方に対して誠意がないような気がしていた。しかしどうしてもその子の前に平身低頭して、自分の気持にきまりをつけなければ済まなかったのだ。そこで己は汽車に乗って、山間にある昔の、と言ってもまだ一年も経っていなかったが、療養所へ行った。
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私はむしろ苦々しい気分で、遠くにいるあなたにこんな一瞥を与えただけでした。私は返事を上げなければ済まないあなたに対して、言訳のためにこんな事を打ち明けるのです。あなたを怒らすためにわざと無躾な言葉を弄するのではありません。
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ところが奥さんは止せといいました。私には連れて来なければ済まない事情が充分あるのに、止せという奥さんの方には、筋の立った理屈はまるでなかったのです。だから私は私の善いと思うところを強いて断行してしまいました。
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ところが奥さんは止せと云いました。私には連れて来なければ済まない事情が充分あるのに、止せという奥さんの方には、筋の立った理窟はまるでなかったのです。だから私は私の善いと思うところを強いて断行してしまいました。
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彼らが自分たちの手際ではとても駄目だからというので、自分は兄といちばん親密なHさんにそれを頼むのが好かろうと発議して二人の賛成を得た。しかしその頼み役にはぜひとも自分が立たなければ済まなかった。春休みにはまだ一週間あった。
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彼らが自分達の手際ではとても駄目だからというので、自分は兄と一番親密なHさんにそれを頼むが好かろうと発議して二人の賛成を得た。しかしその頼み役には是非共自分が立たなければ済まなかった。春休みにはまだ一週間あった。
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けれども長いあいだ抛り出しておいたこの義務を、どうしたら例よりも手際よく遣ってのけられるだろうかと考えると、また新しい苦痛を感ぜずにはいられない。久しぶりだからなるべく面白いものを書かなければ済まないという気がいくらかある。それに自分の健康状態やらその他の事情に対して寛容の精神に充ちた取り扱い方をしてくれた社友の好意だの、また自分の書くものを毎日日課のようにして読んでくれる読者の好意だのに、酬いなくては済まないという心持ちがだいぶ付け加わってくる。
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ところが原さんの前で寒い奥歯を噛みしめながら、しょう事なしの押問答をしているうちに、自分はどうあっても坑夫になるべき運命、否天職を帯びてるような気がし出した。この山とこの雲とこの雨を凌いで来たからには、是非共坑夫にならなければ済まない。万一採用されない暁には自分に対して面目がない。
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彼は又反対に、三千代と永遠の隔離を想像してみた。その時は天意に従う代りに、自己の意志に殉ずる人にならなければ済まなかった。彼はその手段として、父や嫂から勧められていた結婚に思い至った。
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