うかびでる
17 の例文
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支配人の声が金属的に志津子の頭にひびいた。ホステス一人一人の顔のうしろに、それぞれ何人かの客の顔のイメージがうかびでては消えていった。人気のあるホステスには、金持の客、地位の高い客がついている。
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そして、自分たちをとりまいている大きな根をとびこえられるかどうか、そっと高さをはかってみました。土の上にうかびでている根のいちばんひくいところで、ちょうどりゅうの胸の高さほどあります。この根に気づかれずにとびこえることは、身軽なりゅうはともあれ、たみにも、足の不自由な床屋にもむりなことです。
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格子や、動き、踊る模様は消えていた。代りにそこには、同心円がうかびでており、中心には黒い小さな円盤があった。頭脳内部の無言の命令を受けて、彼は無器用なオーバーハンドで石を放った。
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だが、いつも逆に、彼の眼は、ときどき甘い恍惚の手にさそいこまれでもするように、うっとりと陶酔のいろにけむりたちさえするのだった。しかし、いずれにしてもそれらの私かな表情は、彼の外見にまでは、あらわにうかびでてはこなかった。彼の注意がはじめてその外人に向けられたのは、ロックの間をぬってきれぎれにとびこんできた、外人とマスターが交す会話の断片のせいだった。
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刑死の人には、実に盗賊あり、殺人あり、放火あり、乱臣・賊子あると同時に、賢哲あり、忠臣あり、学者あり、詩人あり、愛国者・改革者もあるのである。これは、ただ目下のわたくしが、心にうかびでるままに、その二、三をあげたのである。もしわたくしの手もとに、東西の歴史と人名辞書とをあらしめたならば、わたくしは、古来の刑台が恥辱・罪悪にともなったいくたの事実とともにさらに刑台が光栄・名誉にともなった無数の例証をもあげうるであろう。
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支店長室のドアがあいたとき、Kはそっと薄目をあけてそちらを見やっただけだった。薄いヴェールをへだてたようにぼんやりと支店長代理の姿がそこにうかびでた。しかしKは、支店長代理があらわれたことはそのままにしておいて、その結果起こったきわめてよろこばしい反応のほうに目をとめていた。
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数珠は、きれておちるが、その百八のうち、八つの珠が流星のように消えさった。この八つの珠には、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌と、一字ずつうかびでていた。
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また、軌道を行く月が、巨大なランプのように、暗がりのなかにあった地球の海や大陸を照らしだすこともある。すると、ぼんやりした月光のなかに、見慣れた海岸線がうかびでることがよくあり、そんなときにはボーマンの内をぞくぞくするような興奮がかけぬける。ときどき太平洋が穏やかだと、水面にさんざめく月光さえ見ることができる。
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溺死体《できし たい》が波の下でゆらゆらと動いたり、海面にうかびでたり、陸地にうちあがったりする。前方のハイウェイで渦を巻き、幽霊じみた灰色の波打つカーテンのようになっている霧の背後にひそんでいるのだ。
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彼の知るかぎり、たった一人の人間を月へ送り届けるために飛行が計画されたのは、これが最初なのである。午前二時という時間なのに、記者やカメラマンの一団が、光のなかにうかびでたオリオン3型宇宙機へむかう彼の行手をさえぎった。知っている顔もいくつかあった。
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女がまたこちらを見た。ベンジャコミンの邪悪な形相はうかびでたとたん柔和な顔に溶けこみ、彼は平静にかえった。緊張がとけた一瞬を、女の目がとらえた。
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「尊師、グルガーン参上いたしました」 「他の六名は、ともないきたであろうな」 「おおせのごとく、すべて尊師の御前にひかえておりまする」 闇のなかに、闇の色の長衣をまとった男たちの輪郭がうかびでてきた。「グンディー、尊師の御前に参上いたしました」 「プーラード、参上いたしました」 「アルザング、参上いたしました」 「ビード、参上いたしました」 「サンジェ、参上いたしました」 「ガズダハム、参上いたしました」 老人は目を細めて、うやうやしくひざまずく男たちの姿を見やった。
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四月上旬まだ多野郡新町のお菊稲荷の社のあたりで釣れるのは、一寸か一寸五分のほんの可愛い魚であるけれど、もう利根と烏の合流点あたりまで下ったのは、二寸ほどに育ち、さらに利根本流を武州妻沼橋あたりまで下ったのは三、四寸に育って背の肉が丸々と肥えてくる。鮭の親の鱗の肌には、美しい鱒科の魚特有の紫紺斑点が消え失せているが、鮭の子の肌には青銀色の鱗に微かに小判形の斑点がうかびでて、鮮麗の彩、まことにかがやかしい。一、二寸に育った鮭の子は、軽い味に人の舌を訪う。
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番作の姿がうかびでた。
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ともかく、心理の足跡が、うかびでてきた。失踪の十日ほど前までの約十日間、記代子は毎日ただ一人で礼子のバーへ現れているのである。
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たにまのけしきさとくらく、 おぼろにかすむはざまかな。かつきさうぞくやさかたの もりのあたりをうかびでて、 いまはたのべをすべりくる すあしのまへに、はなあかし。ゆめか、うつゝか、かつみえて、 かつほろびぬるたゝずまひ。
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