いいたくなるくらい
17 の例文
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それが実に豪華な食べ物で、水っぽい雑炊や代用食で飢えをしのいでいた私どもとちがって、至るところでご馳走になっている。なんと役者はトクな商売だろう、と文句をいいたくなるくらいだ。戦争中にあれだけ食った罰で、糖尿病に苦しんだのではあるまいか。
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これが意外なところにまで浸透している。意外というよりは核心と末端にまでといいたくなるくらいのところにまで浸透している。かれこれ十年も以前のことになるだろうか。
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彼女はその広い部屋の隅から隅まで私に見せびらかし、便所のドアのノブやトイレット・ペーパーのホルダーまで、 「イタリア製よ」 と自慢した。両親にも会わされたが、こんな娘が生まれるのは、当たり前といいたくなるくらいの人たちだった。あくどいことをして儲けたことが、一目瞭然のしし鼻のお父さん。
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大事な履歴書を邪険に扱うわけにもいかず、私は段ボールの箱を持ってきて、そのなかに履歴書を入れた。「まだ来るか、まだ来るのか」 といいたくなるくらい、毎日、履歴書は私の机の上で山になっていったのである。外での打ち合わせが終わって、夜、会社に戻ると、若い男性社員三人が履歴書を手にやたらと盛り上がっていた。
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とにかく自分の外見に嫌悪感を持ち、整形することばかり考えていた。ところが同じクラスのなかには、 「なんであの子が」 といいたくなるくらい、きれいになる子がでてきた。彼女を見て私は、 「どうも、納得がいかない」 と首をかしげていたのだ。
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歩きながら真剣に原発や病気の話ばかりをしているのも、問題であるが、 「あなたたち、本当に学生なの」 といいたくなるくらい、むなしい会話がかわされていたのであった。
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十二歳のときの振り袖を着た写真、結婚後、夫と友人と洋服姿で撮った写真、縞の着物を着た写真、どれもあどけなく美しい茉莉が写っている。ところが中年以降の茉莉の写真を見ると、 「どうして」 といいたくなるくらい、顔つきが変わっているのだ。どんな人でも歳をとり、皺は増える。
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一派は精一杯、着飾っているおばさんである。たしかにレストランはレストランであるが、 「そんなにしなくてもいいじゃない」 といいたくなるくらい、きばっている。ごてごてとお飾りがついたブラウスに、あざやかなプリントのスカートをはいている。
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問屋さんに行く道すじに、タカシと同じ学校を受ける学生の家があった。一軒はごくふつうの家だったが、その家の子は、こんなに重そうな眼鏡があるのかといいたくなるくらい、度のきつい眼鏡をかけ、うつむいて歩いていた。もう一軒はとても大きな家で、受験のために家庭教師を三人も雇っているという話だった。
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もっとも安いものともっとも高価なもの、両極端を一つの鉢のなかで一致させたところに着想があり、そして、うまかった。気品のある重湯といいたくなるくらいに淡く軽くしたツバメの巣のスープにおかげで強い香ばしさがつき、ピンと腰の張った華やぎが生まれたのだった。それから、北京鴨であるが、これは私がかねがねそうあってほしいと思う演出で登場した。
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今後のためにどこかで毎月の月齢表を手に入れることとしたい。夜光の明珠といいたくなるくらいの変貌をひきおこしてくれる月光は、こんな時代に、どこで出会えるだろうか。それともこのエンドウ豆大の小石はどんな穢れた、衰えたものでも月光でありさえすればすかさず吸収してゴミ捨場のまんなかにあっても変身を遂げてくれるのだろうか。
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ふつうは犬といえども、ここぞというときには、それなりに自分の性根をみせるときがある。ある犬は番犬としての任務を肝に銘じて、飼い主以外の人間に対して、 「そんなに吠えなくてもいいじゃない」 といいたくなるくらい吠える。またある犬は餌をもらうときだけ、必死になる。
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早くこの寒さから逃れたいと、私は浜についたとたん、温水シャワーにむかって走った。ウエットスーツのジッパーを開けて、温水シャワーを浴びていると、 「世の中にこんな幸せなことがあるかしら」 といいたくなるくらい、気持ちがよくて、いつまでもシャワーに打たれながら、ごろごろと喉をならしていた。ところがいざ脱ごうとすると、ウエットスーツが、ぴったりと体にはりついて離れない。
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女はそれを見て満足し、ネコがのどを鳴らすようにひくく含みわらいをしている。二人ともいささか品がわるいけれど栄養たっぷりの、そんな艶笑小話を交換しあって、むつみあっているといいたくなるくらいの瞬間が花ひらいているのに、それでもやっぱり爽やかさと、あたたかさがあって、友情があるきりである。オカベさんも、セトウチさんも、よほどそれぞれの過去で熟練、苦労、精錬されたことのあるらしい気配である。
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そのなかでもとりわけ塩引は保存がきくので山奥のすみずみまで浸透し、ユリカゴから墓場まで、日本人の生涯そのものにつきまとうこととなった。貧しい山のなかでは味噌、醤油、漬物など、ことごとくに塩分がしみとおっているが、そこへ塩ザケが入り、ほとんど塩そのものがオカズだといいたくなるくらいの食習が永く永くつづいた。いささか誇張すると日本人は世界じゅうでもっとも塩辛い肉を持つ人種となったのである。
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そこにやってきたのは、茶子にそっくりな黒い犬だった。そこいらじゅうをぴょんぴょん跳ねまわり、 「ちょっと落ち着きなさい、あんたは」 といいたくなるくらい、元気がいい。茶子よりもちょっと大きいオスで、この犬には「黒太郎」と勝手に命名した。
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